Neetel Inside ニートノベル
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「私も、いい?」

返事は無言で行われた。
あきらは座布団から降りて立ち上がると数歩下がり、わかなへと座布団を譲る。
その意思を汲み取って、わかなも座布団に正座すると鈴を二回鳴らし、目を閉じて拝む。

――ねえ、おばあちゃん。
今私、すっごいことになっちゃってるの。
この世界は私が居なくて、もう一人の私は男の子だし、おばあちゃん死んじゃってるし、おじいちゃんは生きてるし、お父さんとお母さんは離婚寸前らしいし。
もうどうしたらいいか全然分からない。

そこまで悶々と拝み倒したところで、『ぴんぽーん』と間の抜けたチャイムが鳴る。
はいはい、と勝俊が立ち上がって玄関に出ていく気配がした。
わかなはそれになんとなく気を削がれてしまい、イツへの無言の祈りは中断される。
玄関がスロープだったからてっきり勝俊は足が悪いのかと思っていたが、まだまだ矍鑠(かくしゃく)としているらしい。
もしくは、今後足が悪くなっても良いようにそういうふうに建てたのか。

「こんちゃー!」
「あきら兄ぃ、どこー!」

どたばたと激しい音を立てて、子ども特有の甲高い声が本村家に響く。
あきらがわかなの後ろをすり抜けるようにリビングに戻って行ったので、慌てて後を追った。

勝俊にじゃれつくようにしながらリビングへ入ろうとしていたのは、二人の幼い子ども。
片や、つやつやした黒髪をツーサイドアップにして、ピンク色のTシャツにひよこ色のスカートを履いた、健康的に日焼けした少女。
片や、坊主頭に白いタンクトップ、オレンジのハーフパンツを履いた、こちらも同じく健康的に日焼けしていて前歯が一本抜けている少年。
年頃はどちらもせいぜい小学校低学年がいいところだろう。

「あれー? お姉ちゃん、だれー?」
「あきら兄ぃのカノジョー?」

ぶらぶらと叩くように遊んでいた勝俊の手を放した少女が、わかなを誰何する。
続けるように、少年が一番されたくなかった誤解をした。
あきらはすたすたとリビングに向かいながら、あろうことかそれを否定しない。

「そんなとこ」
「は!?」

きゃー、と子ども達が声に喜色を浮かべる。
いくら相手が子どもとはいえ、こんな誤解をされては堪ったものではない。
わかなは台所へと向かうあきらの首根っこを捕まえて、「変な事吹き込まないで!」と怒声を浴びせた。
しかしあきらは、どこか胡乱気な目をじろりと向けて来たかと思えば、ぼそりとこう呟く。

「いちいち訂正すんのもめんどい」
「私は良くないんだよ!」
「はいはい、でも都合は良いだろ」

そうだけど。
言いかけるも、変に勘繰られて寝室を同じ部屋になどされたら堪ったものではない。
まぁ、それについては後で勝俊に訂正しておけばいいか。

       

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