Neetel Inside 文芸新都
表紙

ぐんたいぐらし!!
酒嫌い

見開き   最大化      


わたしは弱い人間だ。

小中高と部活に勤しんだこともない万年帰宅部だった私にとって

軍人という仕事は正反対のジャンルだったし、

そんな仕事を選んだこと自体が間違いだったのかもしれない。


だけど、今は感謝している。

この仕事に就くまで 私は救いがたいほど空気が読めない人間だった。

今でも空気は読めないが、かつてよりは改善されてはいると想う。

次に先を読んで行動すること。

よく仕事を後回しにしてはよく怒られたものだ。

今では先を見据えて仕事を行い、怒られることもかなり減ったように思う。


そして、何より感謝していることがある。


怒りや憎悪という感情を教えてくれてありがとう。

この仕事に就く前まで わたしは他人の怒りや憎悪を理解することが出来なかった。

だが、今では他人がどうすれば怒りを感じるのか筋立てて理解することができる。

そして何より、今では自分に降りかかった不条理に対して泣き寝入りすることなく

こうして怒りを出すことが出来るようになった。

正直、4年という月日でわたしは軍人(笑)と言われるレベルの雑魚兵士だった。

フルメタルジャケットでいえば……ほほえみデブのようなものだったのだろう。

怒鳴られ、蹴られ、叩かれるとパニックになり、フリーズする。

おそらく、私には何らかの病があるのだろう。

軍人という仕事には怒鳴られ、蹴られ、叩かれるということは一種のコミュニケーションの

ようなものだ。

挨拶がわりに半長k……軍靴で脛を蹴られ、「おっはー」と言ってきた上司ばかりが

いるような環境だった。


正直、私は軍人としては出来損ないだった。

だからこそ、彼らの怨みを買ったのだろう。

正直、今わたしの抱える憎しみというのも逆恨みなのかもしれない。

だが、私がここでこの気持ちを記すのは

ここでその気持ちを打ち明けなければ、正直 復讐を実行に移しかねないと思ったからだ。

日々のつぶやきでも、悪意や愚痴をこぼすようになり自己嫌悪に陥る。

そして、ふと軍人時代の先輩や同僚への激しい憎悪を思い浮かべる。

作品にそれらを反映させ、何らかの形で消化しようとは思った。

だが、果たしてそれでいいのだろうか。

いずれにしろ、何らかの形で憎悪を吐き出さねばならない。






怒られれば仕事を干される。

外界の人間と触れ合うことのない閉鎖的な集落社会である軍人という職業では、

仕事を干されれば それは居場所を失うことに等しい。

基本、私はコミュニケーションが苦手であり、オンとオフの切り替えが苦手な人間だ。

仕事(オン)で殴られ、怒鳴られれば 課業後(オフ)でも引きずる。

正直、入隊当初は勤務態度で指導を受けることも多く

殴られ、怒鳴られるのも仕方がないことだった。

私にも咎があったことは否定はできない。

だが、課業後も自己嫌悪で自分を責めていたわたしを励まそうと

彼等は私を飲みに誘った。 誘った上司の中に、仕事中に私を殴り、怒鳴った者もいた。


基地内には居酒屋があり、基本平日は外に出ることも出来なかったので、

課業後はそこで酒を飲む人間が多かった。だが、正直言ってそれらは苦痛の極みだった。

平日の仕事終わりは、兵長以下の兵たちは終わってからやることが山積みである。

17時に仕事が終わり、寮に帰ってくるのは17時半以降になる。

晩飯を食べ、靴磨き、仕事着のアイロン、洗濯……それらを順調にこなせば

19時40分頃には終わる。

順調に終わればの話だ。 本部の人間に呼び止められたり、班長たち(伍長以上)と話をすれば

当然時間がドンドン伸びていく。 洗濯も台数が限られているから、

夏場になれば少しでも寮に帰るのが遅ければあっという間に制圧されている。

最悪終わるのは20時半か21時を回る可能性もある。

アイロンや靴磨きが終わってなければ、次の日班長たちにどやされるのは自分たちだ。

兵たちは必死である。早めにやることを終わらせて、すっきりした状態になりたい。

だが、班長たちはそんなことはお構いなしだ。

「飲み会、19時な~♫」

班長たちは基本、きったない靴や皺だらけの仕事着で仕事に出ようが何一つ文句は言われない。

その割に兵士たちが靴や皺だらけの仕事着で来れば、鬼の首でも取ったかのように

集中砲火を浴びせる。

まあ、確かに「ダラダラしてるからそれだけ掛かるのだ。」という言葉も理解できる。

「悔しければお前も班長になれ」だのそういう言葉も理解できる。

だが、そんな分かりきった言葉はこの際遠慮してもらいたい。

事実、テキパキした行動力を養えたとも思う。

だが、毎回毎回それが可能なハズもない。

やることを残して止むなく飲み会に行かざるを得ない時だってある。

あの不愉快な残尿感というか、シコった後の尿管に精子が詰まったままのあの不愉快な残留感というか

そんな気持ちを抱えたままの、飲み会でただでさえすこぶる機嫌は悪い。

そんな最悪な精神状態の中、繰り広げられる

何が悪かったかの反省会……




仕事をつまみに酒を飲むのは苦痛の極みだ。

時に酔っ払った勢いで、日頃の鬱憤をぶちまけてくる者もいた。






はぁ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~





もう終わったことじゃないか。そっとしておいてくれ。

酒ぐらい 黙って楽しく飲ませてくれ。

何度も願った。

部下の仕事のダメだしをつまみに、彼等はビールを飲む。

後は愚痴のこぼし合いだった。

「あいつはカスだ」

「あいつは防具を業者から買った値段よりも高く兵士に売りつけて儲けてるクソだ」

「あいつ、イチビってるけど、実際運転はカスだ。」

巷に溢れる本当はえぐい女子会のような会話が飛び交う中、

言ったところで解決などしない無駄な討論や愚痴をつまみに彼等は酒を飲み、つまみをついばむ。

溢れる負の雰囲気に、わたしの精神は滅入り

もう正直、ビールを飲む気力すら無い。

「俺はいいです」

正直、もう寮に帰って眠りたい気分だった。

だが、彼等は執拗にビールを飲ませてくる。

「ええから飲めて」

挙句の果てに、横にもしわたしの酒好きの後輩が居たとする。

「こいつも酒飲んどるけぇー、おまえも飲めやー」

「後輩飲んでるのにおまえってやつは……」

周囲を盾にし、私は飲まざるを得ない雰囲気に持っていかされる。

私も自棄になってビールを一気飲みする。

「飲め言うたでしょ……これでいいですか?」

この件でわたしは何度か胸ぐらを掴まれたこともある。

「先輩舐めとるんかって!」

魔法の呪文だ。

便利な社会だ。

たとえどんなに人間的に非道なことをしても、全てその呪文が守ってくれる。



皆さんが体育会系の宴会において、どんなイメージを抱いているのかは正直わからない。

私の独断と偏見に基づいた意見ではあるが

宴会を通じて団結だ、楽しくわっはっはっ!!

裸で馬鹿なドンチャン騒ぎでわっはっはっ!!

涙をこぼし、互いの友情や団結を確かめ合う……

むさくるしくとも、美しい男たちの友情劇がある。


と宴会とは美化するような描写が多いように見受けられる。



事実は

愚痴と、擦り付け合いと、弱い者虐めの負の掃き溜めだ。

酒やタバコが入っているから、余計にタチが悪い。

団結などクソくらえだ。

この宴会にはあいつは呼ばないでおこうと陰湿な村八分と

この俺が呼んでるのに用事があるから来ないとか俺と用事どっちが大事なんだと

愚痴と文句を垂れ流す

宴会とは陰湿で、傍若無人なケダモノたちの集まりだ。


彼らをそんなケダモノに変えてしまうのはきっと

酒やビールのせいだろう。

あれは、理性のタガを外す麻薬だ。

だからだろうか、わたしは宴会という場が好きになれない。

正確にいえば、私はビールや酒を激しく憎悪している。


ビールや酒という麻薬に溺れた連中が愚痴と文句をつまみに飲む

あの宴会というものを わたしは二度と好きになることはないだろう。

       

表紙

酒屋朋友 先生に励ましのお便りを送ろう!!

〒みんなの感想を読む

Tweet

Neetsha