Neetel Inside 文芸新都
表紙

ぐんたいぐらし!!
酒好きと車好き

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これがまだ少人数ならば、まだいくらか我慢できただろう。

これが宴会となれば、もう悲惨だ。

下っ端の兵士たちにとって、宴会とは何一つ楽しくない最低最悪のイベントの一つだ。

宴会が開始されるやいなや、下っ端は真っ先に準備を押し付けられる。

飲み会の開始が19時だったとしよう。

もし、19時丁度に来たとしたらおそらく後から先輩たちの温かい洗礼を期待できるだろう。

最低でも18時半までには到着しておかなければならない。

ただ唯一到着したところで始められることといえば、会費を集めることぐらいだ。

後から三等陸曹(笑)こと伍長閣下以上の班長がまるで
我が物顔の大名行列のように、次々と現場に到着する。
フィクションでよく見る伍長はバイオ3のようなカルロス・オリヴェイラ伍長のように
まるで下っ端の兵士のように描かれることが多いような気がする。だが、それは半分
嘘であり、半分本当である。

確かに基地によっては佐官クラスの人間がお茶くみをさせられているような
場所もあるし、下っ端が伍長しかいない場所ではそうなるだろう。
だが、わたしのいた部隊では伍長が100%を超えるほど居たのだ。

通常、組織はピラミッド型になっていくはずが、わたしの部隊では伍長がずば抜けて多く、
喩えは悪いが、まるで少ない若者たちで皿から溢れそうになっている高齢者を支えるような
下になればなるほど割を食うカースト制が存在していた。

なお、この我が物顔で到着するのは兵長歴6~7年の連中も同じだ。
俗に彼等は兵士会長(失笑)と言われるベテラン兵になるのだが、班長連中からは
「伍長になれてないカス」と陰口を叩かれている。そんなのを知ってか知らずか、
彼等は時として伍長たちと同じ目線で下っ端である兵長歴3年以下の者たちをこき使う。
兵長歴1年目の者たちがしっかりと挨拶回りと、酒注ぎをこなしているかを指導するようにだ。

民間の企業の飲み会ではおそらく非常識だと思うだろうが、軍隊の飲み会ではこれが常識だ。

下っ端の兵たちは伍長以上の班長たちやベテラン兵全員への乾杯と挨拶回りを強いられる。

乾杯の音頭が始まった途端に、一斉に兵たちは次々と班長や皆さまへの挨拶回りを開始する。
漏れがあれば、後で3年以下の兵士…彼らにとっての先輩がベテラン兵に叱られ、そのベテラン兵は
伍長連中に叱られる。縦社会であるがゆえ、そういう社会の構図が成り立つのは宿命なのかもしれないが、
そうなれば、最底辺の兵士たちへの指導も八つ当たりの八つ当たりの八つ当たりに近い指導に
なってくるのは必然だ。
怒る側はとどのつまり、相手に良くなってもらうために指導するという気は失せ、
自分が怒られないために指導するという感覚になってくる。

「はよ せぇや」

息をついて飲んでると、先輩兵士がボソッと指導を入れてくる。
挨拶回りをするとなれば、10名や20名の単位で済むような話ではない。
小隊2~3個、中隊本部を含めれば、その数は4~50名ほどになる。

まるでキス魔のように、自分のグラスを次々と上司たちのグラスへとチンと鳴らし、
口づけしていくだけの簡単なお仕事……というわけにはいかない。
上司一人一人との話が長引けば、当然完了するのに時間は伸びていく。

(まだ……なの?)

まあ、そう思いながら席を立っては乾杯挨拶を繰り返し、
ようやく挨拶回りを終え席につく頃にはヘトヘトだ。

だが、そこでも仕事は終わらない。
周りの酒飲みの班長たちのグラスを確認し、ビールや酒を注がねばならない。

「おい、コラ!つがんか!」

いきなり怒鳴られ、私は目の前のギール瓶に手を伸ばし、
怒鳴る上司のグラスにビールを注ぐ。

「違うやろが!ビールのラベルが見えるように、こんなんも知らんのか!」

酒が苦手で、大学の飲み会もジュースで通していたから知るわけがない。
今まで人生で経験したことがないことを知ってるわけがないだろう。

と言いたいのを必死に我慢汁のようにグッと堪え、満面の作り笑顔で
私は彼らをあしらう。宴会が終わるまでの辛抱だ。これが終われば……。

そう自分に言い聞かせ、必死に必死に耐える。




沈みゆくわたしの心を余所に宴会は佳境に達していく。

ここで生じてくるのが悪乗りというやつだ。



酔っ払って 口に含んだビールを噴き出してくるもの、

つまみの鍋に七味唐辛子を開け、一瓶まるごと注いだものを飲ませてきたり、

熱っっ熱の鍋をドバっとかけてくる輩がいる。

あまりのやりすぎで、軍人の宴会を断っている飲み屋が出たほどだ。


酒を飲めば無礼講を言い訳に、下っ端の兵士たちをイジリ、鬱憤ばらしに日頃のダメだしをする。

下っ端の兵士たちは如何に自分に被害が及ばないように、汚れ役の押し付け合いをするのだ。

一足先に出世したIに、わたしは何度売られたか分からない。

いつもいつも先輩共のイジリの生贄に捧げられたというのに、今やこいつは一家の大黒柱だ。

神とは不公平なものだ。幸せを享受できるのはいつだって他人を生贄にしてきた奴等ばかりだ。


「なんやおまえ 文鳥さんって……しょうもな。こんなもん目の前で焼き鳥にしたるわ」

生贄に出されたわたしをからかう為に、文鳥好きの私の目の前で文鳥を

すり潰す真似をするのをグッと堪えわたしは大げさにリアクションをしてみせる。

「ちょwwwやめてくださいよーーー!!マジでー!!」

ご機嫌を損ねれば、明日はない。

宴会が終わって寮に帰ればこいつらの同じ屋根の下なのだ。

私は必死に耐えた。

宴会がわたしにとって苦痛なのは

陰湿な陰口を叩く連中の悪口を聞きながら酒を飲むこと、

奴隷のように挨拶回りを強要されること……

酒好きに絡まれて趣味を否定されたり暴力を振るわれること……

があるからだ。

だから、宴会なんかで団結が養えるとか言っている人を見ると心底殺したくなる。

宴会で楽しむ連中があぐらをかいている床の下に、下っ端連中の犠牲があることを

理解させ、味あわせてやりたい。


さらに、宴会では酒好きの他にもう一つ厄介な人種が居る。

車好きという人種だ。


「おまえ、車買わへんの~?????」

「……ええ、既に実家には祖父の車がありますし 買ったところで
駐車場借りなきゃならないですから。」

「夢ないなぁ~~~~wwwおまえ……死に金ばっかり溜め込んでどうすんのwww」

「無形物に金使うとか、もったいないやん。形に残らへんやん。」

私は将来のことを考え、コツコツと1か月5万円の貯金をしていた。

酒もタバコは大嫌いだったし、風俗は……ほどほどにし、

体のメンテナンスを兼ねてマッサージや温泉にお金を使っていた。

休日に寮から帰れば絵を描き、漫画を描くことが好きだった。

そんなわたしの日頃の生活に、彼等は面白みがないとよく馬鹿にしてきたものだ。

車、酒、タバコ、ギャンブル……それらに金を使ってなんぼの連中が

ザラにいたのだ。まだ20代だというのに、老害のような趣味に染まりきり、

同じ20代である筈のわたしの趣味を酷評する。

批難されることを承知で言おう。


私は車も酒もタバコもギャンブルも死ぬほど大嫌いだ。

車好きや、酒好き、タバコ好き、ギャンブル好きに

私は自分の趣味を 

自分を否定されたのだ。


文鳥好きであることを否定され、

漫画好きは根暗の趣味と卑下され、

温泉とマッサージは無形物に金を使うもったいない金の使い方と口出しされた。

だから私もあえて否定しよう。



溜め込んだ金を鮭の射精のように使い込み、高級車を手に入れて自慢するものの

周りには「ふーん」程度にしか思われていないのに気づかず、

世界を手に入れたとでも勘違いして 他人の運転を見下して ブンブン車を乗り回す馬鹿ども。

それが車好きだ。



酔えば他人を傷つけると分かっているのに、自分が楽になりたいからと言って

酒を飲み、自分よりも弱者の他人を虐め 酒嫌いの人に酒を飲めと押し付けてくる

自制心のかけらの無いケダモノども。

それが酒好きだ。強いて言うなら一人飲みが好きな酒飲みからすれば、

他人を巻き込む形の酒飲みはさっさと死ねと言いたい。



埃臭い息を吐き、周りが死ぬほど迷惑している毒の煙を撒き散らすただの害悪の分際で

「俺たちは税金を払っているんだから、感謝しろや非喫煙者ども」と 八つ当たりする

ホールインワン級の勘違いども。それがタバコ好きだ。


せっかくの給料を 運試しに使い、生活費すら切り詰めて周りに金をせがむ 

金が要るのか要らないのかよくわからない無計画の矛盾野郎ども。

それがギャンブル好きだ。




       

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