No5「大怪獣ヘルクラーケンの最後」

「逃げろ?と?」

深夜の日本のとある田舎町。
街灯もない暗闇の中で、花魁のような格好をして着物の襟をはだけさせた女が、目の前に転がるスルメの様な物に訪ねていた。
スルメはその足を動かし、肯定の意を示して見せる。

この女はジャン星人、地球侵略を企み、地球に怪獣送りこんだ侵略星人だ。
その侵略怪獣、ヘルクラーケンは数百メートルあった自らの体を乾燥させて極限まで小さくした姿になり、ジャン星人の元に逃げ帰って地球からの退避を呼びかけていた。
ヘルクラーケンが言うには地球には人類文明に味方する強力な宇宙空手の使い手がいて、ヘルクラーケンはそれに散々なまでに打ちのめされ、小さくなって何とか逃げてきたという。

「ふんっ、たかが宇宙空手の使い手如きに逃げる必要などない。妾の存在に気づいたのなら、ここで迎え撃つまでの事よ」

プライドの高いジャン星人がヘルクラーケンの言葉を一蹴したその時、ヘルクラーケンを追撃してきた宇宙の空手家、カラテレンビクトリーが暗闇の中から現れた。

「地球侵略を諦めて星に帰れ、さもなくばお前を倒す」

構えをとり、星人に警告するカラテレンビクトリー。
星人はそれを無視し、粘液が滴る手で指を三本上げて何かのサインを作る。
すると、星人の背後に次々と御用と書かれた提灯のような物が現れた。
提灯群はふよふよと飛びながらビクトリーを囲んでくる。

「死ぬがよい」

ジャン星人の言葉と共に提灯から一斉に放たれる殺人光線。
四方から放たれた光線をビクトリーは素早くかわし、一気に星人に肉薄する。

「何!?」

ビクトリーの予想外のスピードにジャン星人が驚いた直後、その腹に正拳突きがさく裂した。
鈍い音が響き、数歩後ずさる星人。
周囲に浮いていた提灯のような物が次々と消滅していく。

「ま…負けた、妾ではどう足掻いてもお前には勝てぬ」

力の違いを察し、苦しみながらそういうジャン星人。
星人は目をつぶり、覚悟を決める。

「殺せ」
「待て」

ビクトリーは潔く死を選んだ星人を制すると、床に転がっていた物を拾い上げ、星人に見せた。

「へ…ヘルクラーケン、私を庇ったのか?」

それは真っ二つになったスルメ、ヘルクラーケンだ。
ヘルクラーケンは正拳がさく裂する刹那に星人を庇い、本来ならば即死するはずだった星人を救ったのである。

「折角ヘルクラーケンに拾われた命だ、侵略を諦めて地球を去れ、そうすれば追わない」

そう言って、ヘルクラーケンの残骸をジャン星人に渡すビクトリー。
ジャン星人はそれを受け取ると、しっかりと胸に抱く。

「妾の…完敗だ」

それだけ言って、ジャン星人は空へと飛び立っていった。

「…見事だった」

カラテレンビクトリーは地面に散らばるスルメの破片にそう言って一礼すると、自分もまた夜の空へと飛んでいく。
後に残されたスルメは風に乗り、どこかへと散っていった。