No7「悪夢の人体侵略者」

巨大な生首、合体した二人の人間、小さな鬼のような小人、一つ目の男、横たわる骨、片脚の幼女…。
そんな妖怪のような人々が、騒ぎながらピザを食べている。
そう、「人々」、人間だ。
彼等は怪物では無い、れっきとした我々と同じ地球人類である。

昨日、彼らの街は巨大な侵略星人、ベベロッタ星人の急襲を受けた。
星人は周囲の物体を自在に変質させる能力を持っていて、彼等はその能力の犠牲になったのである。

昨夜だけで数えきれない程の人間が異形の姿にされ、病院や避難所はそんな人々で溢れかえり、そればかりか手足や感覚器を奪われて動け無くなった人々が今もまだ、路上に転がっていた。
星人は既にどこかへ去っているが、他の街でも多くの被害が出ているのだろう、救助がやってくる気配はない。
どうにか人間の形を保っている人達は路上に溢れる動け無い人々を近くの屋内へと運んで回り、そこで事態の収拾を待つ事にしていた。

「おい、しっかり動かせよ、食えねえじゃねえか」

同僚の男性と合体させられたタクシードライバーのMが、自分の半身になったYに言った。

「そんな事言ったってなんか自分の体なのにうまく動かせな…いてて」

抗議しながら手を動かし、Mの口元に右手に持つピザを運ぼうとするYだったが、なぜか左手が動いて自身の頬をつね繰り出す。
MとYは動かない腕を一本、右の背中から生やされた状態で体を融合させられ、両手はYが、脚はMが動かしていた。
一応立って歩く位はできるが、今の様に手足は思うように動いてくれず、ここに来るまでの間にも何度か転倒や衝突を繰り返し、二人は全身包帯だらけである。

「tヴぇサ背マsyおうヵ?」

それを見て隻腕、単眼の男、この家の主であり、冷蔵庫にあったピザを一同に振るまっている翻訳家のSが、滅茶苦茶な発音で二人に何事か述べた。
Sは目と腕の他に喉か舌、もしくは喋るのに必要な脳の機能をいじられたため、まともな発音で喋れなくなっているのである。

「ん」

そんなSに、彼の膝に乗っていた片脚の幼女が手にしたピザの切れ端を差し出してきた。
彼女はC、実際は長身の女医であるが、星人に知能と体系、そして足を奪われ、周囲の手を借りなければ何もできない体にされてしまっている。
医師としての技術は体に染み込んでいるようで、隻腕のSに代わってM達に包帯を巻いて手当てを施したのは彼女だが、複雑な会話や、難解な計算はする事ができなくなっているため、それ以上の治療は設備もない現状では期待できない。
皆生活に支障をきたすような変身をさせられた者ばかりだが、彼らはまだマシな方だ。

「おいしい、です」

先ほどSが近所の男性と協力して何とか家の中へ運びこんだ大きな首、小学生のI君が、一日ぶりの食事に今にも泣きそうになりながら、口に運んでもらったピザをゆっくりと噛みしめる。
I君は頭だけになった上で巨大化させられ、全く身動きができない状態だ。
そんな体で、昨日一晩、路上に放置されていた彼の不安と恐怖、そして助けられた安堵感は計り知れない。
I君の周りでは50cm程の小鬼のような姿にされた人が何人か、彼の体を拭いたり、ピザを渡したりして彼の世話している。
小動物のような思考になっているらしい彼らとは意思疎通ができなくなっており、どこの誰かもわからない、I君の世話は、彼らが自然と始めた事だ。
もしかすると彼らはI君の関係者なのかもしれないが、それを知る術は今は無い。

「戻れるのかねえ、俺達」

頭を前に出して何とかピザをかじりながら、Mがつぶやいた。

「星人が倒されれば戻るんじゃないですか?」

変に手を動かしてMからピザが離れるといけないため手を固定しつつ、Yが応える。

「あいつどうなったんだ?そういえば」

星人の行方を気にするMの言葉に、話を聞いていたSが動いてテレビのスイッチを入れた。

『星人はまっすぐにXX市を目指して進行しています!自衛隊による遅滞作戦が行われていますが、まるで効果が見られません!悠々と星人は進行しています!』

テレビでは、緊急特別放送が行われており、アナウンサーの必死の叫びが聞こえる中、画面には田園地帯を進むベベロッタ星人が映っている。
画面外から砲弾やミサイルが放たれているが、それらは着弾する前に煙のように消えたり、あらぬ方に飛んでいったりして、一発も星人に当たっていない。

「やっぱ駄目か…」
「化け物ですね…」

MとYが悔しそうにそう言った、その時、カメラの横からスタッフが画面に割って入り、空を指さした。

『カラテレンビクトリーだ!』

カメラがスタッフの指さす先を追うと、空の彼方から飛んでくる、胴着姿の宇宙人が映し出される。
宇宙道徳に従って、人類文明を守る、宇宙の空手家、誰が呼んだかその名はカラテレンビクトリー。
カラテレンビクトリーは地面に降りたつと、ベベロッタ星人に構えをとった。
だが、次の瞬間、ビクトリーの体は苦しみだし、その姿が歪み始める。
星人の物質を変質させる力がビクトリーを襲ったのだ。

「ああ!」

その光景に、悲鳴を上げるI君。
しかし、ビクトリーは気合一閃、叫びをあげると、歪みを消し去って元の姿へと戻って見せた。
驚く星人。

「おおおお!」
「いいぞいいぞいいぞお!」
「ikえええええ」
「勝てるよ!」

Mが、Yが、Sが、I君が、その光景に歓喜の声を上げる中、画面の中のビクトリーは星人に上段蹴りを放って、一撃で頭を跳ね飛ばした。
画面内外で大歓声が上がる中、空へと飛び去っていくビクトリー。

こうして奇怪な人体侵略者は文字通り一蹴され、変質させられた人々も元の体へと戻っていった。
侵略星人の起こした悪夢のような出来事は、それこそ夢の様に、一夜にして終わりを遂げたのである。