Neetel Inside 文芸新都
表紙

見開き   最大化      

No16 「侵略老人」

東京湾に落下した飛来物から、人に似た容姿の巨大な宇宙人、マルド星人が2体現れた。
1体は肌が浅黒く、太っていて、もう1体は髪が長く、鼻の下に長い髭が生えていて、顔が細長い。
どちらも人間でいうと初老の外観で、現れてすぐにまっすぐ、東京へと進行する。

それに対し、これまで何度も侵略者の攻撃を受けた日本政府の対策は迅速で、すぐさま自衛隊を出動させ、星人の上陸予想地点に防衛線を展開した。
大量の戦車と戦闘ヘリが海岸に展開し、やがて姿を現したマルド星人に一斉に砲列を向ける。
マルド星人達は地球の火器群を見回すと、太った方のマルド星人が前に進みでた。

「聞け、この星はこれから我々、マルド星人の物になる!貴様等は皆殺しだ!!」

流暢な日本語で、高らかに宣言するマルド星人。

「オヒョヒョヒョヒョヒョヒョヒョ」

太った星人の背後にいた顔長のマルド星人も、扇子の様な物を振りながら笑い始める。

「星人が宣戦布告してきました!」
『直ちに攻撃しろ』

その宣言に、侵略星人との交渉が無意味である事をこれまでの戦いから知っている自衛隊は直ちに星人へ攻撃を開始する。
砲弾が、ミサイルが、雨あられと2体の星人に降り注ぐが、顔長の星人が扇子か紙吹雪の様な物を撒くと、砲弾もミサイルも星人を避けるか、中空で爆発してしまう。

「無駄だ無駄だ、はっはっはっは」
「オヒョヒョ、オヒョヒョヒョヒョヒョ、オヒョヒョ」

自衛隊の猛攻を笑って受け、進行を再開するマルド星人達。
遂に彼らが上陸しようとした、その時、天空の彼方から、宇宙道徳に従って地球を守る白い胴着姿の宇宙人、カラテレンビクトリーが飛んできた。
地上に降りたち、星人達に構えをとるビクトリー。
それを見て、ビクトリーを指さして叫ぶマルド星人。

「何者だ貴様!」
「カラテレンビクトリーだ!地球はお前達には渡さん!」
「小癪な、こおい!」

勇躍、ビクトリーがマルド星人に立ち向かおうとした、その時。

「待って!待って待って、待ってください!」

上空からもう一人、マルド星人が現れ、ビクトリーを制止した。
他のマルド星人よりも若々しく、耳のとがったマルド星人だ。
とりあえず足を止めるビクトリー、自衛隊も攻撃をやめ、様子を伺う。
それを見て、最初からいる太ったマルド星人が目を輝かせた。

「おお、ヴェルナスよくぞ来た!行け、あの宇宙人を倒せ!」

そう言ってビクトリーを指さし、若いマルド星人に命令する太ったマルド星人。
しかし、ヴェルナスと呼ばれた星人は動かず、心底呆れたように大きなため息をつく。

「どうした!ヴェルナス、マルド星の敵を倒すのだ!」

もう一度、ヴェルナスに命令する太ったマルド星人。
それに対しヴェルナスは拳を振り上げると、太ったマルド星人の頭を殴りつけた。
突然の展開に、唖然となるビクトリーと自衛隊を他所に、ヴェルナスは怒鳴り始める。

「なにやってんだじいちゃん!ボケるのも大概にしろ!他所の星の人に迷惑かけんな!」
「な…何をするかヴェルナス!わしはアルデヴェランを全滅させて、地球をわしらの手に取り戻すんじゃ!」
「アルデヴェランがこんな辺境の惑星にいるわけねえだろ!あれは現地の方々とボランティアの人だよ!大体地球は元々マルドの領地じゃねぇ!歴史間違えて覚えるなよ!」
「いいやいいや!わしが従軍しとった頃たしっかにここにマルド軍の要塞があった!」
「じいちゃん戦争行ってねぇだろ!」
「オヒョヒョヒョヒョヒョヒョ」

思わず、ビクトリーは地上の戦車隊に視線を向けた。
茫然としていた戦車兵がそれに気づき、ビクトリーを見上げて両者の視線が交わる。
あ、どうも、いえ、こちらこそと会釈しあう二人。

「帰るよじいちゃん!賠償問題になる前に!」
「オヒョヒョヒョヒョ」
「カズアキおじさんも!ほら!ボケてなんでも言う事聞くようになってこの人は…、あ、地球の皆さん、カラテレンビクトリーさんすみませんでした、今連れて帰りますので」
「離せ!!テヘロン共の野望を砕いてボエラを救うんじゃ!」
「目的変わってんじゃんか!それにボエラ婆ちゃん一昨年亡くなったし、爺ちゃんはもう振られてて脈はないから!おらあ!帰るぞ!」
「嘘じゃあ!卑怯なりカラテレンビクトリー、孫を洗脳したな!」
「オヒョヒョ」
「手伝ってカズアキおじさん!」

やがて、ヴェルナスとカズアキが協力して太ったマルド星人を拘束し、宇宙の彼方へと消えていった。
マルド星人達がいなくなったのを確認すると、ビクトリーもまた、自衛隊に深々とお辞儀をして、空の彼方へと帰っていく。
後に残された自衛隊は、ボケた老人に全力で挑んで負けた事実に、ただただ頭を抱えるしかなかった。

       

表紙
Tweet

Neetsha