Neetel Inside 文芸新都
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No18 「死と絶望の赤い雨の中で―後編―」

大宇宙から強大な力を持った侵略星人が地球にやってきた。
その名は、バルデリオ星人。
物体を溶かす赤い雨でヨーロッパを覆い、万の人間を殺し、街を滅ぼしていく40mの巨人。
その体は、人類のあらゆる兵器を通さない強固な装甲で覆われ、黄色く光る両肩の角からは強烈な電撃を放ち、両手の刃は地球上に切断できない物質は無く、鳥獣を思わせる逆関節の両脚は大気圏内でも超音速の機動力を星人に発揮させる。
強い。
圧倒的に強い。
恐ろしく強い。
絶望的に強い。
それが、バルデリオ星人。

バルデリオ星人の攻撃で、ヨーロッパは物質を溶かす赤い雨を降らす赤い雲に覆われていこうとしていた。
地球人類の兵器は、赤い雨を浴びればいとも容易く溶けてしまうため、バルデリオ星人に近づく事も出来ず、仮に命中させる事ができてもバルデリオ星人にダメ―ジを与える事はできない。
なすすべのない人類に代わってバルデリオ星人と戦うべく、カラテレンビクトリーが現れた。
カラテレンビクトリーとは、白い胴着に身を包んだ宇宙人で、宇宙の道徳に従い、必殺の拳と、超能力で、これまで幾多の侵略星人を倒してきた、宇宙の空手家だ。

だが、バルデリオ星人は強かった。
赤い雨の降り注ぐ中、カラテレンビクトリーはバルデリオ星人に技を破られ、滅多打ちにされ、打ち倒されてしまった。
真っ赤な血を流し、地面に倒れ伏したビクトリーを、バルデリオ星人は何度も踏み付け、嬲り、蹴り飛ばす。
ビクトリーは、力が及ばないのを知ってなお、立ちあがろうとした。
だが、もう攻撃の手段がないビクトリーは、ただただバルデリオ星人に甚振られるしかない。
意地の悪いバルデリオ星人は、わざとビクトリーにトドメを刺さなかった。
立ちあがろうとするビクトリ―を蹴りつけ、地面に転がしては、また立ちあがろうとするビクトリ―を楽し気に眺め、適当なところで再び転がす事を繰り返す。
更にバルデリオ星人は放送設備をどこからか持ちだして、カラテレンビクトリーを甚振り、嬲るその様を広く世界に配信しはじめた。
ビクトリーは世界の人々が見つめる中で、何度も立ちあがろうとした。
何度も何度も何度も何度も何度も、数時間に及ぶ時間、必死に立ちあがろうとしては、バルデリオ星人に倒された。
やがて、再び立ちあがろうとする間隔は開いていき、やがて…ビクトリーは完全に動かなくなった。
バルデリオ星人は動かなくなったビクトリーを指さして笑うと、赤い雨を降らす黒雲の中へと消えていく。
残されたビクトリーは、もうぴくりとも動かない。
白かった胴着は、ボロボロに破れ、真っ赤に染まっていた。


無残に敗れ去ったカラテレンビクトリー。
だが、その姿は、世界の人達に、もう一度、バルデリオ星人に立ち向かう勇気を与えていた。
世界中の科学者がその持てる科学技術を結集して、バルデリオ星人の降らせる赤い雨の研究を行い、各国の軍隊は赤い雨の中での戦いを想定して、猛訓練を開始する。
軍人や科学者だけではない、政治家は予算を動かし、混乱を鎮静化させることに奔走し、警察官や消防官は赤い雨の脅威から人々を守るべく奮闘し、交通関係者は避難を手助けし、そして大勢の人々は赤い雨の恐怖をこらえて冷静な避難を行う。
人々は怒っていた。
理不尽に数万の命を奪った輩に、自分達の土地を奪おうとしている輩に、そして、宇宙から自分達を助けに来てくれた人類の仲間を、徹底的に甚振ったその輩に、絶望するよりも強い怒りを燃やしていた。

そして、人々の努力は身を結び、赤い雲を消し飛ばすためのミサイル、レッドバスターが完成した。
レッドバスターは、本来台風を消し去るために作られていたミサイルを改良した物で、赤い雲を構成する物質と化合して無害化する物質を、超広範囲に一瞬で散布する事ができるのだ。
計算では、レッドバスター十数発で、ヨーロッパの赤い雲を消し去る事が可能だったが、レッドバスターを長距離ミサイルで撃っても、バルデリオ星人に撃墜されてしまうだろう。
そこで、大量生産したレッドバスターを積んだ大型機を大量に動員し、それを戦闘機と地上兵器で守りながら、赤い雲に接近し、バルデリオ星人を護衛部隊が食い止めている間に、大型機からのレッドバスターで赤い雲を攻撃する事が決まった。
すぐさま世界中から勇敢な兵士達と、様々な機動兵器が大量に集まり、赤い雲への総攻撃が行われた。
大型機から発射されたレッドバスターは予想通りの成果を上げ、赤い雲を次々と消滅させていく。
だが、すぐに雲の中からバルデリオ星人が現れ、レッドバスターを次々と破壊してしまった。
戦闘機や戦車が攻撃しても、バルデリオ星人は意に介さずにレッドバスターを積んだ大型機を襲って撃墜してしまう。
人類の抵抗を笑い、わざとミサイルを体に受けたり、戦車を持ち上げて大型機にぶつけるなどして、必死に戦う人類を嘲笑うバルデリオ星人。

それでも戦う人類の戦闘機が、バルデリオ星人に特攻をしかけようとした、その時、カラテレンビクトリ―が上空からバルデリオ星人を強襲し、地面に叩き落とした。
人類の反撃で赤い雲が薄まり、雨が弱まった事で、雨に耐えるために回していた力を回復に回して、大復活を遂げたのだ。
真っ赤に染まった胴着から、雨なのか血なのかわからない液体を滴らせつつ、バルデリオ星人に構えをとるビクトリー。
苛立ちをあらわにしながら、もう一度切り刻んでやろうと凄まじい速度で襲ってくるバルデリオ星人。
だが、カラテレンビクトリーは体を丸め、反撃を捨てた完全防御姿勢をとってバルデリオ星人の攻撃を弾きかえした。
予想外のビクトリーの行動に、驚く星人、そこを人類の猛攻撃が襲う。
凄まじい総攻撃に不意を打たれて怯むバルデリオ星人。
その隙にビクトリーは撃墜された大型機からレッドバスターをとると、人類の攻撃で思うように動け無いバルデリオ星人に正拳突きでレッドバスターをねじ込んだ。
装甲の間で炸裂するレッドバスター。
すると装甲のわずかな間から赤い雨を無力化する物質が星人の体へ注入され、星人は断末魔をあげて苦しみ始めた。
赤い雨を構成する物質は我々の体にとっての酸素の様にバルデリオ星人の体にとって必要な物質で、それがレッドバスターによってバルデリオ星人の体から一瞬にして消滅したのだ。
痙攣して苦しむ星人。
それめがけ、ビクトリーは必殺の技を次々と叩きこんだ。
三段蹴り!
踵落とし!
飛び蹴り!
回し蹴り!
そして必殺の正拳突き!
滅多打ちにされた星人の装甲がひび割れて砕け、そこにもう一発、大型機から放たれたレッドバスターがさく裂する。
崩れ落ち、大爆発するバルデリオ星人。
世界中が湧き上がり勝利の大歓声を上げる。
それに見送られ、傷ついた体で空へ飛び去っていくカラテレンビクトリー。
雨が止んでできた虹と、共に戦った世界中の戦士達が、その背中を見送った。

       

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