Neetel Inside 文芸新都
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No19 「全てが止まった街で」

その日、地球、いや、太陽系はわずか1秒にも満たない間に侵略されてしまった。
全てが「止まった」のである。
町を行きかう人間も、空を飛ぶ飛行機や鳥も、海の中の魚も、惑星の自転も、恒転も、太陽の運動、熱に至るまで、重力と光を除くほぼ全てがビデオの一時停止の様に空間に固定され、動かなくなっていた。
この壮大な出来事は、たった一体の侵略星人の超能力による物だ。
あらゆる物体を静止させる事ができる超能力を持つ恐るべき宇宙人、その名は、マルデーイル星人。

「ふっふっふっふっふ、成功だ」

全ての止まった太陽系のとあるビルの一室で、マルデーイル星人は言った。
星人は太陽系侵略のため、超能力を使うエネルギーを蓄えるべく、地球に潜伏していたのだ。

「これで太陽系の全ての物は私の物だ」

そう言いながら、ビルの外へと歩みでるマルデーイル星人。
外の街は昼間で、路上では大勢の人間や車が動いていた最期の瞬間、そのままの姿で止まり、空には鳥が空間に止まっている。
全てが止まった世界を一人、一本の足で飛び跳ね、自由を満喫するマルーデイル星人。
星人はこれから何をしようかと考える。
原子炉を暴走させてはどうだろうか、きっととても綺麗な花火が見れるだろう。
目についた人間を片っ端から解剖するのもいい、感覚だけ動かして、何もできない状態で解剖される苦しみを味合わせるのは楽しそうだ。
地球の人間を片っ端から時間を止めたまま孕ませ、しばらく動かしてみるのも、産んだ時の反応を見るのが面白いかもしれない。
わくわくと夢を膨らませながら街をうろつく星人。

ふと、その足が止まった。
その目の前に、一人の女が止まっている。
何の変哲もない地球人の女だ。
ただ、何かがおかしい。
その女からは、何か、言いようのない違和感を感じるのだ。

「…はだし?」

足元を見た星人は、その女の違和感の正体に気がついた。
女は、何故か靴を履いていないのだ。

「ふんっ」

女にどんな事情があるのかは星人にはわからないが、違和感の原因がわかってしまえば、もう怖くはない。
星人はレーザー銃を取り出すと、女に狙いをすませる。

「私を驚かせた罰だ、喰らえ!」

星人が引き金を引いた次の瞬間、女は素早く身を屈め、星人めがけて地を蹴って突っ込んできた。

「何!?」

女の拳が星人の頭にさく裂して吹き飛ばし、頭を失った胴体はその場に崩れ落ちると、炎を上げて爆発四散する。
それと共に、止まっていた太陽系のすべてが、何事もなかったように再び動きだしていく。

「危ない処だった」

突然出現した爆発に、周囲がどよめくなか、女は一人、路地裏に走りさると、その正体を現した。
その正体は、カラテレンビクトリー。
宇宙の道徳に従って、地球を狙う侵略星人と戦う、宇宙の空手家だ。
ビクトリーがマルデーイル星人の全てを止める能力下で動ける時間はわずかしかない。
そこでビクトリーは女性に擬態し、ギリギリまで星人に接近していたのである。
いつでも踏みこみ技を放てるように、靴は脱いでおいたのだ。

       

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