Neetel Inside 文芸新都
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No25「大廃獣対カラテレンビクトリー」

猫に似た宇宙人、マジョルラ星人が4体、朝鮮半島某所の廃墟の中に集まっていた。
彼らはこの廃墟の地下に秘密基地を作り、地球侵略の機会を伺っていたのだが、その企みは今まさに潰えようとしている。
培養していた怪獣、マジョル・デ・ビルガスが暴走し、基地を破壊し始めたのだ。
既に彼らの仲間の多くは死に、侵略司令部や研究設備は完全に破壊され、マジョル・デ・ビルガスは今、脱出用の宇宙船を破壊しようとしている。


「チーフ、何か手はないんですか?」

グレーの毛をしたマジョルラ星人、フェンリーが、牛柄の上司、チーフに焦り乍ら訪ねた。
だが、上司はただ無言で地下の光景を見ているだけである。
どんな相手が来ても勝てるように作った怪獣だ、制御が失われ、装備が何もない現状ではどうする事もできない。
そして、例えここから逃げたとしても、一度マジョルラ星人の肉の味を覚えたマジョル・デ・ビルガスが闘争本能のままに自分達に追いついてきて、瞬く間に皆殺しにするだろう。
その後地球人類が暴走したマジョル・デ・ビルガスに滅ぼされる事になるのだろうが、それは彼らにとって知った事では無い事だ。

「思えば短い人生だった…」

そう言って丸まる、チーフと同じく牛柄で、チーフよりも若干大きな地球侵略のリーダー、オックス。
完全に自らの命を投げた周囲をフェンリーは苛立たし気に一瞥すると、ふと、ただ一人だけ、真剣な顔で地下を見つめている人物がいる事に気がついた。
マジョル・デ・ビルガスの研究主任、薄いオレンジ色の毛並みをした、ブチャだ。
ブチャは聡明な人物だ、もしかすると、何か秘策があるのかもしれない。
フェンリーはそう思い、ブチャに話しかけた。

「ブチャさん、何か…」
「マジョル・デ・ビルガス…やはりお前は美しい、お前に喰われるなら…本望だ」

そう言って、ブチャは地下への入り口に飛びこんだ。
会然とするフェンリーの耳に、地下からブチャの悲鳴と肉を裂く音が聞こえてくる。

(だ…駄目だ、こいつらに、こいつらに頼ってはいけない)

若いフェンリーには夢があった。
それは、膨大な資源が溢れる惑星を開拓し、その資源をもってあらん限りの贅沢をする事だ。
だからこそ、この科学者達に協力して、研究所から資材を盗むのを協力し、研究の助力をしてきたのである。
それが、小さな失敗から起こった一連の出来事で、一気に無に帰ろうとしているのだ。

(こんな…こんな連中と一緒にいちゃいけねえ!いけなかったんだ!俺は何てバカなんだ、目先の欲に目がくらんで侵略なんかやらかしたばっかりに…)

いや、そうではない。
そもそもこのような悪事に加担したのが間違いだったのだ。
例えこの計画が成功していたとしても、この男達は別のどこかで必ず計算違いや間違いを犯し、同じ運命をたどっていたに違いない。
フェンリーにはそんな確信があった。
一時の感情や欲望に目がくらんで、とんでもない、取り返しのつかない事をしてしまったと感じた。
自分勝手な事で他人に…まして姿形も違う他の星の生物に迷惑をかけ、あまつさえ滅亡に至らしめる事、それが如何に邪悪な事か、彼は今、それを身をもって知った。
そして罪を償うべく、彼は声を大にして叫んだ。

「カラテレンビクトリいいいいいい!来てくれえええええええええええ!」

猫の叫びが朝鮮半島に響き渡り、チーフとオックスがぎょっとする。
慌てて自分を止めようとしてくるチーフを弾き飛ばし、フェンリーは叫ぶ!

「カラテレンビクトリいいいいいい!怪獣が暴れているんだ!カラテレンビクトリいいいいいいいいい!」

その叫び声に応えるように、天空の彼方から白い胴着姿の宇宙人が飛んでくる。
宇宙道徳に従い、地球の平和を守っている宇宙の空手家、カラテレンビクトリーだ。
地球侵略、その最大の障害になるはずだった存在である。


「なんてことをしてくれたんだ!」

怒り狂った目でこちらをにらんでくるオックス、しかし、フェンリーは怯まずにオックスに叫ぶ。

「こっちの台詞だ!俺を悪の道に誘いやがって!」
「はっ、俺達が誘わなくても、欲深い奴は必ず別の機会に同じような道へ行くはずさ」
「そんなもん、わからないさ!」
「母星で犯罪者になり、みじめな思いをする位なら!」

逃げようとするオックスだったが、カラテレンビクトリーが手を叩いて大きな音を出した途端、その体が金縛りにあったように動け無くなってしまう。
宇宙空手の技の一つ、コスモ猫ダマシだ。

「畜生、畜生…」

自分の死に方すら選べず、悪人は悔し気な声を上げ、悶絶する。
そんな悪人を他所に、フェンリーから事情を聞いたカラテレンビクトリーが地下の入り口をたたき壊し、地下施設へと侵入してマジョル・デ・ビルガスと交戦を始めた。

「共倒れろ!」

チーフがそれを見て、醜い叫び声を上げた。
だが、マジョル星人達が絶対の自信をもって作りだした怪獣に、カラテレンビクトリーの必殺の手刀や拳が次々とさく裂し、ほとんど抵抗を許さずその頭を踵落としが粉砕する。
断末魔を上げて倒れ伏し、溶け散るマジョル・デ・ビルガス。

「ほあああああああああああああああああああああああああああにゃあああああああああああああああああああああああああああああ」

その光景を見て、奇声を上げるオックス。
チーフは頭を垂れて、ピクリとも動かない。

「やっぱり、正義は強い…いや、悪はどうしても弱いんだ」

フェンリーは、ぼそりと思った事を口にした。
彼らを待つのは、母星に連行されての無期懲役である。
そこで、フェンリーはきっと、強い男へと生まれ変わるだろう。

















       

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