Neetel Inside 文芸新都
表紙

見開き   最大化      

No26 「友情の大決闘-前編-」

ある日突然、アメリカの都市に巨大な黒いドーム状の物体が出現し、都市をすっぽりと覆ってしまった。
内部との連絡が途絶え、アメリカ軍が出動して周囲を包囲する中、ドームから女の声が響き始める。

「カラテレンビクトリー、我々パンゲアラ星人は地球侵略の為にどうしてもお前が邪魔だ、そこでお前には私の用意した敵とこいつと戦ってもらう」

パンゲアラ星人と名乗るその侵略星人がそう宣言すると、ドームの黒い壁がわずかに透明になり、中に着流し姿の巨大なヒューマノイドが現れた。
日本人のような容姿をしており、腰には刀まで下げている。

「もし明日の朝までに貴様が現れなければ、我々はドーム内の地球人を無差別に、苦痛に満ちた殺し方でなるべく残酷に殺していく!」

そう言って星人の声は消え、ドームの壁も元の真っ黒い状態に戻ってしまう。
周囲を取り囲むアメリカ軍は直ちに壁の破壊を行うも、アメリカ軍の最新鋭の兵器をもってして、ドームには傷一つつける事ができなかった。



その夜、新たな侵略星人の出現に、ホワイトハウスで緊急対策会議が開催された。
しかし、政府にはドーム内の市民の救出を諦め、戦略核兵器による飽和攻撃作戦以外に打つ手がなく、カラテレンビクトリーに頼るしかない状況である。
カラテレンビクトリーとは世界中のどんな軍隊よりも強い武力と、科学力を持ち、宇宙道徳に従って人類に無償で味方してくれてきた宇宙の空手家だ。
カラテレンビクトリーが現れれば、市民の命が助かり、核兵器を使わずに事態を終息させる事が出来るかもしれない。
しかし、今回パンゲアラ星人はカラテレンビクトリーの存在を事前に知り、更に真っ向から戦いを挑んでいる。
あの着流しのヒューマノイドが圧倒的にカラテレンビクトリーよりも強いか、何か秘策があるのだろう。
そうすると、カラテレンビクトリーをアテにして彼が敗れてから戦うよりも、核兵器による先制攻撃を行った方が勝算があるかもしれない。
対策会議は先制核攻撃派とビクトリーによる対応を待つ派にわかれて論争になり、一向に対応策が決まら無かった。
そこで、会議場のドアが開き、以外な人物がホワイトハウスに現れる。
カラテレンビクトリーだ。
白い胴着姿の宇宙人、カラテレンビクトリーが、ホワイトハウスに堂々と現れたのだ。
あまりの出来事に、一瞬唖然とする大統領以下要人達。
だが、SPはすぐに反応し、カラテレンビクトリーに銃を向けて包囲し、大統領を逃がそうとする。
しかし、カラテレンビクトリーが大声で喝を唱えただけで、一流のSP達は体に強いショックを受け、その場にへたり込んでしまった。

「大統領、まず突然の非礼をお詫びしたい。だが時間が無かったのでこうして強硬手段をとらせていただいた。どうか話を聞いてもらいたい」

流暢な英語で大統領に申し出るカラテレンビクトリー、大統領は退避を促す周囲の要人達を手で制し、カラテレンビクトリーに正面から堂々と向きあう。
その隙をついて体制を建てなおした国防長官とSP数名が銃撃を見舞うも、カラテレンビクトリーは飛びくる弾丸を二本の指で全て止めてしまった。
再度、周囲を叱責し、無駄だと銃を降ろさせる大統領。
カラテレンビクトリーはそれを確認すると、ゆっくりと話し始めた。

「あのドームの中にいる宇宙人は、私の宇宙空手と同等の力を持つ武術、宇宙剣技の使い手、ケンゲキオーゼットだ。もし戦えば、私とて危うい相手である。だが、ケンゲキオーゼットは本来地球侵略を企む輩ではないし、広い宇宙に彼を洗脳する術は存在しない。恐らく、ケンゲキオーゼットはなにかしろの弱みをあの宇宙人に握られている可能性が強いのだ」

どよめくアメリカの要人達、それは何かと尋ねる声がどこからか上がる。

「恐らく人質だろう」

一同がさらにどよつく。
宇宙人が身内を人質にとられて脅迫されるなど、なんと地球的な理由だろう。
バカバカしい、という声も上がった。

「それで?君は我々に何を求めているんだ?」
「アメリカ軍に人質を救出してもらいたい」
「…宇宙人相手に我が軍の通常兵器が役に立つのかね?それに、その人質の場所は?」
「わからない」

一際どよめくアメリカの要人達、中には怒声すら聞こえてくる。

「だが、大体の場所はわかっている、北アメリカ大陸、それもアメリカ国内だ。私が場所を特定しすぎると星人がそれを察知して人質を移す可能性がある、そうなったらすべてが水泡に帰してしまう。だが星人はアメリカ合衆国の力を完全に侮っている、合衆国政府の行動には対応できないだろう」

そう言って、近くにいた要人に何かを渡すカラテレンビクトリー。

「これは?」
「パンゲアラ星人の使う通信機器や特殊な波長の詳細なデータだ、役立ててほしい」

それだけ言うと、カラテレンビクトリーは一同に背を向け、窓から去っていこうとする。
誰も、それを引きとめる事はできない。

「どこへ行くんだ?」

誰かが尋ねた。
ビクトリーは振り向かずにそれに応える。

「星人のドームへ向かう。あの街の人達を助けなければならない」
「まだ我々は協力するとも、君を信じるともいっていない」
「知っている、だが、私はどっちみち行かねばならない」

それを聞いて、思わず大統領が身を乗りだし、声を大にして尋ねた

「我々は地球人だ、君が我々を救う理由がない、そしてケンゲキオーゼットは君と互角かそれ以上の実力をもっていて…しかもドームには星人の罠があるかもしれない、それでも行くのかね?何故?」
「…?」

そこで、カラテレンビクトリーは不思議そうに振り返った。

「それが何故、私が助けに行かない理由になるんだ?」

大統領達は言葉を失い、茫然となる。
カラテレンビクトリーは空を仰ぐと、まっすぐに暗い夜空へと飛びたった。



やがて、黒いドームをゆっくりと朝日が照らしていく。
朝日を背に不気味に建つ巨大なドームの前にカラテレンビクトリーはゆっくりと降りたっていた。

       

表紙
Tweet

Neetsha