No34「侵略王襲来」
タイ某所。
「津波だあああああああああああああああああ!!」
昼の海岸に男の声が響き渡った。
突然の、本当に突然の出来事に、悲鳴と怒声が響き渡り、パニックになった人々が外に溢れ、事故が連発する。
「なんで…、あんな大きな津波が…」
呆然と海を眺めながら、一人の女がぼそりとつぶやいた。
彼女の視線の先には、ビル程の大きさの巨大な津波が、浜めがけて迫ってきている。
なぜ、あんな津波が現れたのか、彼女は逃げることも忘れて考えた。
あれほど巨大な津波が起きるには、巨大な隕石でも落ちてこない限りはあり得ない。
だが、隕石はおろか、地揺れの一つもここでは起こっていないのだ。
というよりも、普通津波の時に起こるはずの、潮の引きが全く起こっていない。
だとすれば、考えられる事はただ一つである。
「…侵略星人の仕業なの?」
宇宙からの悪意の可能性が、彼女の脳裏をよぎった。
侵略星人とは、遠い宇宙のかなたからやってくる、人類文明を滅ぼして地球を奪わんとする宇宙人達の事だ。
近年になって突然、侵略星人が次々と来襲し、地球はたびたびその脅威にさらされているのである。
侵略星人達は皆単体でも恐るべき戦闘能力を持っていて、人類文明の力では全く太刀打ちできない。
人類文明が今日まで健在であったのは、そんな侵略星人達に、人類に代わって立ち向かう存在があったからだ。
「カラテレンビクトリーだ!!」
空を指さし、誰かが叫んだ。
空を見上げれば、天空のかなたから飛んでくる、白い胴着姿のヒューマノイドの姿がある。
宇宙道徳に従い、人類文明の為に戦う宇宙の空手家。
その名も、カラテレンビクトリーだ!
カラテレンビクトリーは津波の迫る海岸に着地すると、迫りくる津波めがけて構えをとる。
「ヤーーーーーーー!!エイッッ!!!」
裂ぱくの気合と共にカラテレンビクトリーが正拳突きを放つと、津波は砕け散り、水蒸気となってまとめて消滅した。
あまりの凄まじい出来事に、海岸は一瞬静まり返ったが、一泊おいて大歓声が沸き上がる。
人々が津波を消し飛ばして街を救ってくれたカラテレンビクトリーを見上げると、しかし、ビクトリーは油断なく、海のほうへ構えをとっていた。
『逃げるんだ』
人々の頭の中に、突然、声が響き渡った。
『ここから離れるんだ!すぐに!!』
それが、カラテレンビクトリーからのテレパシーだと人々が気付くのに、さして時間はかからず、再び人々は悲鳴を上げて走り出す。
何から逃げているかはわからない。
だが、何か、恐ろしい何かが現れようとしているのは間違いないのだ。
必死に逃げる人々を背に、海の向こうに構えをとるビクトリー。
そして遂に、水平線の彼方にそいつが現れた。
「現れたな……シャーニイト星人」
ぼそりとつぶやくビクトリー。
枝の様な細い手足。
ハサミとコルク抜きを足したような右手と、マジックハンドのような左手。
Tシャツのような胴体。
そしてツギハギされたような頭。
外見は全く強そうに見えないその侵略星人は、40mの巨体で、どういう原理なのか海面を歩きながら陸地へと向かって歩いてきている。
(なんだあんな宇宙人)
その姿を認めて、何人かの住民が足を止めた。
これまで、カラテレンビクトリーはもっと強そうな侵略星人達を一撃で葬り去ってきている。
それに比べれば、今回現れた侵略星人は余りにも非力そうに見えたのだ。
だが、彼等は次の瞬間、凍りつく事になる。
「おい、嘘だろ、アレ…」
カラテレンビクトリーへとゆっくり歩いてくる侵略星人。
その後ろ、空中に黒い穴の様な物が現れ、そこから次々と異形の怪物達が現れたのだ。
最初に現れたのは、巨大な妖精のような姿をした怪物、コスモピクシー。
次いで現れたのは、アゲハ蝶の模様がヒト型になったような宇宙人、ホルビット星人。
その次に現れたのは、猫を大型にしたような怪物、マジョル・デ・ビルガス。
触手をうねらせながら、イカのような怪物、ヘルクラーケンも穴から姿を現してくる。
更に穴から大量の水が落ちてきたかと思うと、その水が渦を巻き、生き物のように陸地を目指して進撃し始めた。
最後に、穴の中からゲーム機をもった幼い少女の姿をした怪物が降下する、バクトル星人の恐るべき侵略怪獣、ンモデルガだ。
侵略王、シャーニイト星人。
宇宙で最も恐れられる、宇宙道徳の敵。
その能力は、あらゆる侵略星人を生き返らせ、意のままに操る事である。
「「「行け」」」
胴体と、頭の左右にある顔から6大怪獣、宇宙人に指示を飛ばすシャーニイト星人。
それに応え、怪物達はビクトリー目指して突っ込んでいく。
「エイヤー!!」
裂ぱくの気合の籠った叫びを上げると、カラテレンビクトリーは怪物たちを迎え撃たんと駆け出した。
同じころ。
夜のアメリカ、ニューヨークにも同じ黒い穴が現れ、中から不気味な霧が立ち込め始めた。
侵略星人の出現であると察した米政府が市民の避難命令を即時発令した時、霧の中から人間の腕を持つ巨大な翼竜、モークプロメルスが現れる。
市街地を蹂躙し、破壊の限りを尽くすモークプロメルス。
それに対抗すべく直ちに米陸空軍が出撃すると、今度は穴の中からイルカ型の戦闘艇に乗った人間サイズの星人、スドルボ星人が数十体あらわれた。
スドルボ星人の戦闘艇は米軍の最新鋭戦闘機の機動能力を凌駕し、手にした携行火器は一撃で戦闘車両の重装甲を撃ちぬいてしまう。
なすすべのない米軍をあざ笑うかのように霧は徐々に広がり、ニューヨークだけでなく他の都市へも進行を始めていった。
朝のロシア、モスクワにも黒い穴が現れ、中から巨大なツインテールの少女が現れた。
少女が手を振って指示を下すと、避難しようとしていた子供達が突如として狂いだし、大暴れし始める。
人間の子供を自在に操る力を持った、ミンサッカ星人だ。
ミンサッカ星人の超能力に混乱するモスクワへ、星人を殲滅すべくロシア軍が駆けつけてくるが、突如穴から放たれた斬撃によって次々と撃破されてしまう。
やがて穴の中から骸骨のような怪物、スコール星人が姿を現した。
スコール星人に守られ、自分の能力を存分にふるって子どもを狂わせていくミンサッカ星人。
夜のブラジル、ブエノスアイレスに現れた黒い穴からは、七色に光るカビが降り注いできた。
それはただのカビではない。
知能を持つ侵略星人、メルビ星人だ。
過去メルビ星人による攻撃を受けた事があるブラジル政府は、この星人に対していかなる対応も無駄である事が周知されており、人々はただ逃げ惑うしかできない。
凶悪な七色のカビは、容赦なくそんな人々を次々と飲み込みこんでいく。
未明のエジプト、カイロ、立ち並ぶビル群の上に現れた黒い穴からは赤い雲が現れてカイロ上空を覆い、人々の頭上に赤い雨を降らせていく。
悲鳴と倒壊音が響き渡る中、穴の中から猛禽類のような足のような足と、黄色く輝く爪をもった怪物、バルデリオ星人が姿を現した
バルデリオ星人が両手を広げると、赤い雲は瞬く間に拡散し、エジプト全土へと広がって、各地を阿鼻叫喚の地獄絵図に変える。
オーストラリア、キャンベラの街には上空に出現した黒い穴から巨大なヒト型ロボット兵器が次々と降り立ち、市街地の破壊を開始した。
更に頭に角を生やしたトカゲを人型にして鎧を着せたような外見の星人、グライカロット星人が現れ、高熱火炎をはいて市街地を蹂躙していく。
軍の戦闘機隊がいち早く現地に飛来してくるが、戦闘機は突如、上空で見えない壁にぶちあがったかのようにひしゃげ、爆発四散してしまう。
それは、ビルの上から他の2人の星人、肩当をつけた金髪、ビーヘイト星人と、派な口ひげを生やしたスキンヘッドの男、エゼロ星人と共に立つ、髪で目を隠した普通の少年の外観をした侵略星人、ババム星人の仕業だ。
エゼロ星人の指揮で動くロボット群を引き連れ、暴れ狂うグライカロット星人、時折応戦に現れる軍隊は、エゼロ星人の手でなすすべなく撃破されてしまう。
瞬く間に、キャンベラの街は壊滅し、ロボット群を引き連れたグライカロット星人は、次なる町へと進撃を開始した。
シャーニイト星人に操られて蘇り、人類文明を蹂躙し、破壊と殺戮の限りを尽くす侵略星人達。
これまでカラテレンビクトリーによって何とか支えられてきた人類の平和が、今、まさに崩れ去ろうとしていた。