Neetel Inside 文芸新都
表紙

見開き   最大化      

No35「立ち上がる者」
日本某所。
この日、とある高校で映画研究会の学生達が、中庭で自主製作映画の作成を行っていた。
3年生がメガホンを取り、2年の男子が主役を演じる恋愛映画である。

「白藤さん、ねえ、白藤さん」
「え?ああ、ごめん、どしたの?」

小柄なショートカットの可愛らしい友人、坂本に声をかけられ、呆然としていた赤毛長髪の少女、白藤 輝華(はくとうてるか)は返答する。

「もうすぐ出番だよ、準備して」
「…うん」
「なんかずーっとどっか遠く見てるけど、具合悪いの?」

純粋に心配している様子の友人に、白藤は愛らしさを覚え、いつもの様に彼女を抱きしめ、頬ずりを喰らわせた。

「もおおおおお、坂本やっさっしいいいいいいん」
「ぴゃあああ、やめてよおお」

慌てながらも嫌がりはしない友人に、白藤の心にどんどんと愛おしさが沸き上がり、キスの雨が坂本の顔に降り注がんとする。

「待った待った、イチャコラはそこまでにして、昼休み終わっちゃう」

そこに、3年の監督、純山が止めに入った。
残念そうに舌を出し、白藤は坂本を開放すると、もう一度空を仰ぐ。

(…何か、嫌な予感がする)



「それじゃあ、シーン3の頭から」

やがて主演の2年生がカメラの前にスタンバイし、いよいよ撮影が始まった。

「シーン3、カット無し、よーい」

純山の声に、坂本がカチンコを構える。

「アクショ…ン!?」

カチンコが鳴り響いた、次の瞬間、撮影を見ていた一同は我が目を疑った。
今さっきまでそこに立っていた2年生。
その2年生が、突然木に変わっているのだ。
カチンコを持っていた坂本も振り返ってそれに気づき、悲鳴を上げる。

「…まずい!坂本、離れて!!みんな逃げて!!」

それを見て、白藤が叫んだ。
坂本が彼女の方を向いて、何か言おうとした、その時、坂本の体がうねり、緑色の岩に変わってしまう。

「坂本っ!!」
「うわああああああ」
「助けてくれぇええ!!」

次いで、監督の純山が、カメラを回していた学生が、次々と倒れ、異形の物体に変貌していく。

「っく…」

そして白藤の体にも変化が現れ、彼女の体が黒ずんで行き始める。

「……舐めんじゃないよ!!」

しかし、白藤の目が一瞬黄色く輝くと、体の変化はあっという間に元に戻った。

「ごめん、皆」

そう言い残し、白藤は校舎の中に駆け込んでいく。
校舎の中では坂本達と同じように、生徒達が苦しみながら異形の物体へと変貌していた。
あちこちから悲鳴が響き渡り、逃げ惑う生徒で校舎内は大パニックに陥っている。

「逃げて!!ここからなるべく離れるんだよ!!」

何とか原型をとどめている生徒たちに叫びながら、廊下を走り、白藤は自分のクラスへと飛び込んだ。
教室の中でも数人の生徒が苦しみ、次々と異形へと変貌している。

「いた!トシアキ!!」

苦しむ生徒達の中に自分の恋人を見つけ、駆け寄る白藤。
その対象、眼鏡の小柄な少年、トシアキは下半身が臓物の塊の様になり、上半身も徐々に変貌していこうとしていた。

「今助けるよ」

そう言って、腕に黄金の光を貯めて、トシアキの下半身に掲げる白藤。
しかし、トシアキの手が伸びて、彼女の手を抑えた。

「ダメだよ、君は…君は人間だろ?そんな事、しちゃいけないんだ」
「何言ってんだ!こんな時に」

彼の手を振り払おうとする白藤だが、トシアキは頑強に手を離そうとしない。

「僕だけ助かるのも……嫌だ。それにもうすぐきっと…カラテレンビクトリーが来てくれる、君が力を使う事なんてないんだ」

そう言って、苦し気にしながらも、白藤の目をまっすぐに見つめてくるトシアキ。

カラテレンビクトリー。
それは、宇宙道徳に従って人類文明に降りかかる超常的な災厄や怪物と戦っている、超能力を持った宇宙の空手家だ。
これまで幾度となく、カラテレンビクトリーはこうした人類の危機に現れて、強大な敵と戦ってきてくれた。
今回もまた、彼が現れてすべてを解決してくれるだろう、彼女が、白藤が無理をする必要はないのだ、そう、トシアキは言っているのである。

「ん…そうだね、その通りだ」

そう言われて、少し納得した白藤は、ポケットからスマートフォンを取り出すと、ワンセグをつけた。
せめて現状がどうなっているのかを詳しく把握しようという試みである。

「早く来てよ…」

だが、彼女の祈りもむなしく、緊急特別報道ではカラテレンビクトリーがタイで複数体の侵略怪獣と交戦し、さらに世界各国を侵略者の集団が襲っているというニュースを流していた。

「嘘…」

思わずスマホを取り落とし、トシアキに縋りつく白藤。
トシアキはもうしゃべる元気もないのか、目を瞑り、ただ苦し気に呻いている。

「トシアキ!」

再び白藤がその下半身に手をかざそうとした、その時、何か巨大なものが落下した地響きがした。
窓を見ると、校舎から離れた位置に巨大なヒューマノイド型の宇宙人が降り立っている。
かつて地球人の体を愉快犯的に変質させ、カラテレンビクトリーに倒された侵略星人、ベベロッタ星人だ。

「あいつが…トシアキを…みんなを!!」

拳を握る白藤の体を、黄金の光が包み込んでいく。

「ダメだ!!輝華!!なっちゃダメなんだ!!」

最後の力を振り絞って、叫ぶトシアキ。

「キミが人間じゃないのはいいんだ!でも…でも戦ってほしくないんだ!!死なないで!僕のそばに…そばにいてくれよ!!」

目に涙を浮かべ、体が臓物のような異形に変わることも構わず、トシアキは叫んだ。
白藤がそれを聞いて振り返り、何事か言おうとした、その時、何かが地底から現れ、ベベロッタ星人に襲い掛かっていった。
それは、全身を植物の蔓と花で覆われた怪物、かつてカラテレンビクトリーを絶対絶体絶命に追い込んだ植物怪獣、ビッグジャングルである。

「なんだあれ!」

突然現れたビッグジャングルは、両腕をふるい、ベベロッタ星人を叩きのめしていく。
ベベロッタ星人は応戦するが、ビッグジャングルのほうが力が強く、星人は一方的に殴られるばかりだ。

「ああ、あれなら!」

白藤がビッグジャングルの優勢に頬を緩めたのも束の間、ベベロッタ星人の後ろの空間に黒い穴が現れ、そこから中華服を着た少女の姿の宇宙人が現れ、強力な火炎放射をビッグジャングルに浴びせてきた。
かつてドーム状のバリアを作り、アメリカ合衆国を襲った凶悪宇宙人パンゲアラ星人だ。
パンゲアラ星人の放つ強力な火炎を、ビッグジャングルは両手をふるい、花粉の様な物を放って必死に防ぐが、このままではほどなく焼き殺されてしまうのは目に見えていた。
続いてベベロッタ星人も手から砲弾の様な物を発射し、ビッグジャングルを攻め立てていく。
甲高い、少女のような悲鳴を上げて苦しむビッグジャングル。

「………トシアキ」

その姿に、覚悟を決めた白藤は、もう一度トシアキを振り返った。
トシアキはもはや頭以外すべて臓物のような異形に変わり、浅く呼吸するばかりである。
白藤はその頭を愛おしそうに一度撫でると、おもむろに口づけをした。

「大丈夫、絶対大丈夫、だって私の名前の最後の文字は……あの人と同じなんだもの。絶対に勝って、戻ってくるよ」

そう言って、白藤は窓から飛び出し、黄金の光をまとって巨大化する。
ビッグジャングルと戦っていたベベロッタ星人とパンゲアラ星人が驚愕した隙を逃さず、パンゲアラ星人の胴体に強烈な蹴りを見舞い、吹き飛ばす白藤。
次いで、白藤はベベロッタ星人の顔面にも拳をふるい、星人を後退させる。
火炎攻撃から解放されたビッグジャングルが、信じられない、といった調子で、白藤の方を見上げてきた。
白藤は、ビッグジャングルに微笑みかけて、手を差し出してみせる。
遠慮がちに手を取り、引っ張られて起き上がるビッグジャングル。

「この星はあたしの故郷だ、あんた達が何者かなんか知らないけど、好き勝手になんかさせないよ」

ビッグジャングルの無事を確認すると、拳を鳴らして、ンモデルガⅤは星人達に戦闘態勢をとった。

       

表紙
Tweet

Neetsha