Neetel Inside 文芸新都
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一枚絵文章化企画2017
「野原ひろし 糞喰いの流儀」 作:野原ひろし 0305 13:40

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 花魁の産みたてのうんこが食べたい!

 そう思い立った俺が降り立ったのはJR京都駅。未知へのグルメへと高揚する気持ちを抑えられずに既に愚息はいきり勃っている。おっといかんいかん。自己紹介がまだだった。

 オレの名は野原ひろし。愛する妻と2人の子を持つ平凡なサラリーマンだ。今週末は京都支店での打ち合わせの為この地を訪れた。1000年の都と誇称される政令指定都市にはまだ見ぬ未踏のグルメがオレを待っているに違いない!


「せんぱーい、京都に先輩が探してた風俗嬢の食糞が出来るお店があるそうですよ」

「ホントか、川口!」

「ええ、裏サイトによる情報なんですがね。ほら、見てくださいよ。花魁の格好をした女の子が相手をしてくれるみたいですよ。僕も行ってみたいなぁ」

「でかした!週末に理由をつけて京都に行ってくるぜ!」


 という事で京都の風俗街を歩くオレ。数日前から会社を休み始めた部下の川口から教えられた店のホームページを頼りにその場所を探すと目の前に築50年を超えるであろう雑居ビルが姿を現した。

「こんな店に花魁が居るのか…?」

 不安な想いを胸に階段を上り自動ドアを開く。すると目の前にカウンターが見えて、奥の方に店の看板が置いてあった。すぐにボーイがオレに向かって声を掛けオレはそれに対応した。

 有線からは演歌が大音量で流れている。ここまではピンサロを彷彿させる普通の風俗店。だがその奥から漂ってくる妖気にオレの異食グルメセンサーが反応した。

 一説によると、かのインカ帝王は己に仕える女中のうんこを食い、それに含まれる栄養素を精力に変え永きに渡る繁栄を築いたという(※ 参考文献 民明書房刊 「歩いてわかった!本当のインカ帝国」)

 2人目が生まれてみさえとの仲は冷え切っている。この野原ひろし、男としてまだまだ終わっちゃいねぇ。ここで再び精力をつけて仕事に、夜に、若い頃のように全力で打ち込んでみせるぜ!

 使い込まれた椅子に座ること数十分。再びボーイが現れて禁止事項を話し始めたが俺の興味は既に店の奥に向かっていて、右から左へそれを受け流すとボーイが目の前の重々しいドアを引いた。

 足元の暗い通路に招かれると薄い区切りの部屋から華やかな一人の美女が姿を見せた。

「本日はよろしゅうお願いいたします~」

 オレの前に現れたのは胸元をあらわにしたはんなり京都美人。オレはボーイにこの子でいい、と示すと彼女に手を取られ仕切りの奥にある簡易ベッドに腰をかけた。

「あらあら、出張さんどすか~?近頃は不景気やさかい、ごひいきにして頂けると助かります~」

「へへっ、そうだな、へへっ」

 背広を脱ぎながら準備を始める若い花魁姿の嬢を見ながらニヤケ笑いが止まらない。数分後にはこの美女の尻から産まれたうんこを喰えるんだ。興奮で動悸がし始めてきた。

「それでは、さっそく。ご用意いたします~」

 彼女は長い裾を捲くるとひと呼吸した後に立ち上がって腰に力を入れ、踏ん張った。オレはまだ見ぬ期待に目を瞑った。どんなクソが来るか楽しみだぜ。オレとしてはやっぱり昔ながらのオーソドックスなバナナうんこに期待だ。かちんこちんのこんこんちきのこんちきちんはゴメンだぜ。

「んんっ……むぅ………お待たせさんどした~」

 おっ!来た!!来た!!さあどんなうんこだ?目を閉じたまま嗅覚を集中させる。

 うう~~ん、この香りたまんねえ~~甘い醤油の香りが食欲をそそるぜ。

「いただきまーす!!」

 箸で掴み、口の中で頬張る。コリコリとした食感が口に中に伝わってくる~~!!

 これ!!これ!!ザ・イカ焼きって感じ!!……ってあれ?


「…うちのお店は花魁の格好をしたおなごがお客さんにイカ焼きを提供するお店なんどす~。演歌を愉しみながら齧るイカのお味は絶品どすえ~」

「な、なんだ、そういう事だったのか、ハハ、ハハハっ」

「なんやお客さん、うちのお店をいかがわしいお店と勘違いしてたんちゃいます~?」

「い、いや!そんな事はねぇよ!!たはは…」

 オレはすっかり毒気が抜けて背中を壁に押し当ててへたり込んだ。店内には八代亜紀の「舟唄」が流れていた。

「なんや、いんたーねっとっちゅうのでうちの店が花魁さんのうんこが食べられる~なんて言うとるらしいけどそんな事はありまえへんから安心してほしいさかい。
それと、お客さんは大丈夫やと思いまっけど酔っ払っての花魁へのお触りは禁止どすえ~」

 オレは店内の壁に貼られている迷惑客の顔写真を見渡した。『お願いします、家族には連絡しないでください!』なんて噴き出しが付きそうなくらい情けない表情で懇願する連中共が並べられている。そこには頬が角ばった見慣れた顔も並んでいた。

「川口、おまえ」

 時間になり、オレは雑居ビルを出た。京都まで来て訪れた食糞風俗がまさか老舗の演歌喫茶だったとは。俺としたことが…痛恨の選択ミス!!すると後ろから女性の声が投げつけられた。

「あれ、あなた」

 驚いて振り返ると女性の隣に居た5歳くらいの子供がオレを指差して茄子のような顔の口を開いた。

「あ、母ちゃん。この人、父ちゃんじゃないゾ」

「あら、ごめんなさい。ウチの人にそっくりだったもんだから…そうよね。あの人が真昼間にこんないかがわしいお店がある場所を歩いている訳ないし」

「ああ~ん、オラもオトナのおねいさんと演歌でも聴きながら納豆をかき混ぜたいゾ~」

「あんたねぇ…いい加減にしないとなつかしのぐりぐり攻撃とげんこつかますわよ」

「ええ~!オラもうBPO委員会に怒られるのはこりごりだゾ~」

 じゃれあいながらオレの前を歩いていった親子を眺めながらオレは引きつった笑いを浮かべていた。


 …オレは野原ひろしだ!誰が何を言おうと野原ひろしなんだ!!


       

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