Neetel Inside 文芸新都
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一枚絵文章化企画2017
「雨男VS晴れ女」作:新野辺のべる

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「今日は降水確率0%の快晴です。小春日和の過ごしやすい一日となるでしょう」
 誰も見ていないのにつけっぱなしのテレビの天気予報が独り言を言っている。
 青空の下に映える白いシャツと色とりどりの服たち。万国旗のようにはためく洗濯物を干し終えた母が、あわただしく身支度を終えて玄関に向かう僕の背中になにがしか叫んでいる。
「出かけるなら、ちょっと待ちなさい!」
「いってきまーす!!」
 僕は傘立てに大量に刺さっているビニール傘を習慣のように無造作に1本引き抜いて、玄関を飛び出した。
 目の前に滝がある。
 バケツをひっくり返したような雨が降り注ぎ僕の目の前に立ちふさがっている。
「緊急速報です。新都町でゲリラ豪雨が発生しています。お出かけのかたはご注意ください」
 後ろからテレビの音がそう伝えていたが、僕はビニール傘を開いて雨の中に飛び込んだ。


 僕はいつもこうだ。花見、遠足、運動会、修学旅行に海水浴。僕が雨男なせいですべて雨天中止になった。何か行事があるたびにお前は雨男だから参加するなとクラスメイトに言われ続けてきた。
 なるべく家から出ずに暮らす生活スタイルになって、ネット三昧の日々。ネットで検索しても僕ほどの雨男はいないようで、孤独を癒すようにとあるサイトに入り浸るようになった。
 新都社という誰でも自由に漫画と小説を発表できるサイトだ。このサイトにきて以来飽きるということがない。新都社には一生かけても読み切れないほどの面白い漫画や小説が眠っていた。(ダイマ)
 僕は読み専だけど、雨男というコテハンで本スレに出没している。そこでいつものように自分の雨男エピソードを披露していると晴れ女という挑発的なハンドルネームの奴が話しかけきた。
「私も晴れ女なので苦労してます」というレスを送り付けてきたので「晴れ女なんてみんなに喜ばれそうなものだろ。僕のほうが苦労してる」と返してやった。晴れ女は「マラソン大会のときに絶対に中止にしたいから参加するなとクラスメイトに言われ続けている」とどこかで聞いたエピソードを挑戦状のように叩きつけられる。
 ならばどちらの天気が強いか試してみようじゃないかということになり、本日サシオフすることにあいなった。
 雨男と晴れ女が出会ったら、いったいどちらの天気になるだろう? 晴れ女は曇りになると予想していたが、絶対雨のほうが勝つに決まってるさ。今だって雨足は強まっている。


 雨に横殴りの風が加わり、行く手を阻む。まるで台風中継のレポーターのように、僕は裏返った傘に引っ張られ派手に転んだ。
 傘を捨てて、向かい風に立ち向かう。
 僕は今、神さまがいることを確信した。
 雨男と晴れ女が出会ったらどうなるか? 答えはそんな矛盾を神さまは許さないということだ。僕たち二人の邂逅を邪魔するように雨はどんどん強くなる。目の前5メートル先も見えない状況でどうやって待ち合わせ場所の新都駅までたどり着けというのか。矛盾した天気にならないように、神さまが引き離す。僕たちは出会えない宿命なのかもしれない。
 正直どこか期待してたんだ。サシオフなんてまるでデートみたいじゃないか。嫌われ者の僕がデートなんて、雪でも降るんじゃないか。まあ、降るのは雨と決まっているのだが。
 僕は土地勘だけを頼りに駅前までたどり着いた。駅とは思えないほどに人気がない。これだけ悪い天気の日に遠出する人もいないのだろう。
「不戦勝だな」
 僕の寂しい勝利宣言に女の子の声が答える。
「もしかして雨男さんですか?」
 雨が激しすぎて気が付かなかった。僕たちはほんの1メートルの距離まで近づいていた。
「は、晴れ女さん。は、は、初めまして雨男です」
 雨に煙ってぼやけて見えるショートカットでボーイッシュな晴れ女は傘を差してはいたが、白いキャミソールにデニムのホットパンツと場違いな格好だ。
 どもってしまったのを照れ笑いで隠しながら、僕は再び勝利宣言する。
「僕の雨が勝ったね」
 晴れ女は小首をかしげ傘を左手に持ち直すと、右手で僕の右手首を引っ張った。
 土砂降りの壁を抜けた先、晴れ女は僕と相合傘になるほど近くに引き寄せ満面の笑みで僕を迎え入れると、そこは別世界だった。
 僕の濡れた服もすぐに乾くほどのモーレツな日差し。久しぶりに直射日光というものを浴びた気がする。
 どうやらちょうど二人の間が雨雲の切れ目になっていたようだ。お天気雨とか狐の嫁入りとかいわれるヤツだろう。
 晴れ女は日傘をたたみ天を指差す。
 僕たちは同時に空を見上げた。
 赤、橙、黄、緑、青、藍、紫。晴れ間から差す光は雨粒で滲んで空をカラフルに染め上げていく。雨と晴れはぐちゃぐちゃに混ざり合ってカクテルみたいな虹を創っていた。

       

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