「最後の一本」妄想_0307_23:41

煙草の製造が禁止されて、半世紀が過ぎた。

嫌煙者の数は年々、増え続け、分煙から始まった喫煙者への虐げは次第にエスカレートして、
国内での全面的な禁煙や、その後の煙草という製品自体の撤廃に追い込まれていったのだった。
大昔は、煙草はむしろ身体に良いとまで言われたのに、なんて時代に生まれてしまったのか。
今では刑罰の対象ですらある。

私は祖父の代から秘密裏に受け継いできた、この煙草の愛好家だ。
当初はまだ1カートンほど残してあった煙草も、もはやこれが最後の一本となってしまった。
これを終わりに、今後の人生で煙草を吸う機会など、ありはしないだろう。
そう思った私は、どうせなら思いっきり味わって仕舞いにしようと、あえて自然の中で吸うことに決めた。

ここが良いだろう。
そこは緑地化された公園の中で、ふと開けた空間にベンチが二脚ほど置いてあり、眼前には澄んだ池が見渡せ、
涼しげな風が時々、通っていた。
周囲に誰もいないことを十分に確かめ、火をつける。

まず一息吸ってみる。少し遅れて、舌に適度なやわらかさを纏った感覚が伝わってくる。
一気に吸ってはダメだ。辛味を感じてとたんに不味くなってしまう。
煙を口の中にゆっくりと留めながら香りを楽しんでいく――。

満喫していた私は、ずいぶんと自分の世界に入り込んでしまい、隣で若い女がこちらを見ているのに気付かなかった。
目が合う。
しまった。なんということだ。
煙草を屋外で吸うのは、禁固もありうる重罪である。
冷や汗をたらしながら、私は自分の不注意を悔い、目をそらせずにいた。

ふと、その女はぽつりと呟いた。
「あのおじさん、口に何を咥えてるのかしら」