Neetel Inside 文芸新都
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一枚絵文章化企画2017
「暴飛のキツネ」作:竹トンボ(3/8 23:00)

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 また暴飛族が出たようだ。爆音まき散らしてこの狭い街を飛び回っている。ちょっと元気にエアカー運転しているだけで罪を犯しているつもりはないのだろう。事故を起こしさえしなければ文句を言われる筋合いはないと思っているんだろう。だけどそうもいかないんだ。

 街中の障害物を限界ギリギリの速度で避けていくのはそりゃあ楽しかろう。窮屈なこの町で窮屈な人生を送っているお前たちは、そうすることで大人たちの鼻を明かした気になれるんだろう。だがな、この街が窮屈で障害物だらけなのにも理由があるんだ。一つ一つの障害物も、意味があって作られているんだ。
 大昔は水道やガス管、電線やネット回線なんかのライフラインは全部地下に埋めていたらしい。だけど人が増えすぎたせいでこの街は、いや、この星全体が窮屈になっちまった。地下だけじゃ足りなくなって、でかくて頑丈な〈ライフパイプ〉がビルとビルの隙間の至るところに通されて、障害物競走のコースが出来上がったってわけだ。
 分かるか? お前たち、バカな脳みそにムチ打ってエアカーの仕組み勉強して、衝突回避装置を外したろ? 暴飛行為できるように。あれはお前たちの命を守るためのもんじゃない。〈ライフパイプ〉を、さらにはこの街の住人の生活と命を守ってるんだ。事故を起こさなければいいんじゃない。お前たちは衝突回避装置を外した時点で、この街の住人全員に宣戦布告してるんだよ。

 ああ、分かってる。お前たちがこんな説教を死ぬほど嫌っていることは。俺が言いたいのは、俺はお前たちの気持ちは分かるが、だからと言って見逃してやるつもりはないってことだ。

 それと実際に声に出して言う気はないが、もう一つ。衝突回避装置を外すのは宣戦布告だって言ったが、合法的に外せる職業もあるんだぜ? 脳みそがバカだから気付かんのだろうが。


 そんなことを考えている間に準備が整った。
 俺の新しい愛機はドルフィンスタイルか。型は古いが新米警官が乗るには贅沢なシロモノだ。だが俺にとってはハンデとしてちょうどいい。


 それじゃあお前たち。俺の記念すべき初仕事、いや、障害物競争の始まりだ。

       

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