Neetel Inside 文芸新都
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一枚絵文章化企画2017
「その出会いは奇跡」作:後藤健二 0304 01:42

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 この企画プロジェクトは失敗に終わるだろう。
 多くの人たちの期待や希望を背負って送り出されたのに……まことに申し訳ないことだ。
 私が眠っていたのは数百年、もしかしたら数千年か……定かではない。
 だが冷凍睡眠コールドスリープ装置が故障してしまい、強制的に起こされてからは十二年だ。
 私の寿命が尽きるあと何十年以内に、または食料コメが尽きる前に、新たな未開拓惑星フロンティアへ到達できる可能性は限りなくゼロに近い。



 宇宙世紀になってから何千年か。
 人類を養うことに耐えきれなくなった地球を救わんと、多くの宇宙飛行士たちが未開拓惑星フロンティアの調査と開拓へと送り出されていった。
 だが、人類が移住するに適した惑星などどこにもなかった。
 観測が間違っている場合も多く、行ってみなければどういう惑星かも定かではない。
 文明が進んだ地球人類といえど、光年単位で離れた惑星間航行にはまだ長大な時間を要しており、冷凍睡眠を繰り返して何百年とかけて向かうしかない。
 観測では「人類居住可能」とされていた惑星でも、遠く離れた惑星へ何百年何千年とかけて辿り着いてみても既に死の星だったりする。
 そう、宇宙には死が当たり前のようにあった。
 まず惑星にバクテリアのような原始生命体が発生するのも非常に稀なことである。
 稀の稀なケースで知的生命体が発生しても、人類と交信可能なレベルに到達するのは更に稀だし、そういうレベルに到達していると既に戦争か何かで滅亡した後というのが相場だった。
 更に稀の稀の稀なケースで、知的生命体に進化して文明が存続していたとしても、明らかな敵意を向けてくる宇宙人ばかりで、宇宙世紀に突入する前の人類には想像もつかないほど宇宙はサツバツ世界だった。
 斯くして、地球国家の宇宙開拓事業は暗礁に乗り上げる。
 人類は色々と諦めて、地球の中でひきこもるニートすることを選択した。
 だから今や、そんな衰退産業に乗り出すのは、趣味でやってるような時代錯誤の奇特な零細民間業者ぐらいのもの。
 私はそんな奇特な業者の一人であり、時代錯誤だろうが宇宙にロマンを求めて旅立ったのだ。
 稀、稀、稀、稀……稀な奇跡を信じて。
 人類が交信可能で友好的な宇宙人や、移住可能な未開拓惑星を求めて。





 だから、その出会いは本当に本当に本当に……奇跡だった。
 望んでいたような移住可能な未開拓惑星という訳ではなかった。
 その惑星もまた文明滅亡後なのだろうか、戦火のためと思しきクレーターが生々しく残る地表。
 大気は吹き飛び、宇宙服をまとわねば外にも出られない。
 漆黒の宇宙空間と変わらぬ薄い大気の中。
 だがその「光」は燦然と、力強く輝いていた。
 古代の地球の伝承にあるような、妖精のような姿をしたその宇宙人は…。
 光の繭に覆われ、胎児のように体を折り曲げて眠っている。
 もしかしたらこの惑星における唯一の生き残りなのかもしれない。
 移住可能な惑星ではない。
 この宇宙人が友好的だったとしても、人類に有益なレベルではないだろう。
 有益だったとしても、いずれ死にゆくしかない私には活用できるすべはない。
 人類にとって、この出会いは何の意味もない。 
 それでも。
 そっと手を伸ばし、私はその妖精を慈しむように手のひらで包み込むように覆って…。


「この出会いと、この企画プロジェクトにありがとう」


 と、つぶやいた。

       

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