「私の目的地は。」作:ヤスノミユキ 0327 19:13

 目的地への道すがら。私は、いまは亡き友リーヴィルについて考えていた。
 われわれ反乱軍といえば、元よりゴロツキの群れのようなものである。組織構成する連中の血気盛んなことといったら、宇宙全土において「狂犬」の異名を轟かせるほどであったが、その中に混じってさえ、リーヴィルは飛びぬけて凶暴だった。彼の鍛え上げられた筋骨は人を殴るためにあり、口汚い罵りと皮肉は人を斬りつけるためにあり、明敏にして悪魔的な頭脳は人を謀るためにあったと断言できる。しかし、そうして略奪と凌辱の限りを尽くしていたリーヴィルであったが、反乱軍を現在の地位――善良な市民をして正義と言わしめる名誉にまで引き上げたのも、また彼なのである。
 本人の談によれば、リーヴィルはスラム街の生まれだった。メシェル銀河はパム星の、南ユーカリ地区。辺境銀河の辺境星、中でも最も貧しい辺境地域が、帝星軍からどのような扱いを受けたのか。中央選民思想を掲げながら末端までの支配を目論んだやつらの指針を考えれば、想像に難くない。実際、帝星軍に向かう彼の憎しみは並々ならぬものがあった。
 私が思うところ、リーヴィルは他の誰にもそうであったように、自身に対しても苛烈な批判を浴びせていたのではないか。比肩する者のない自信家であるように見えて、一方では非常に自罰的で卑屈な彼のことだ。幼少より自己形成を手伝った帝星軍という相手へ、例えばいくらかの子どもが親にそうするようにアンビバレントな感情を抱いていたとしてもおかしくはない。だとすれば、星民たちが加勢しているつもりの反乱軍と、その実像には若干のズレがある。なぜなら、反乱軍が帝星軍と争う構図は、リーヴィルという一人の男の、ごく私的な都合によって成り立っていたのだから。
 ともあれ、彼はもはや銃弾に倒れた。この戦争は趣を変え、ただ実生活のみを賭けた戦争へと昇華した(あるいは堕した)のかもしれない。
 死んだリーヴィルから私が首座を引き継いで、今日で一年になる。反乱を決起した頃の同胞はほとんどが死に、残りは組織で出世を果たした。みながこの戦争をどう捉えているのかは知る由もない。けれども、私はあくまでリーヴィルの後釜として役割を請け負うつもりだ。友人のやり残した仕事を肩代わりするという、馬鹿馬鹿しい無意義さに殉じ、それを弔いにするつもりなのだ。
 私は前を見据えた。目的地はもう、全貌を現しかけている。
「なあ、あんたウルバさんだろ?」
 到着へ向けて歩を早める矢先、声を掛けられる。見ると、奇妙な格好の男が立っていた。
 異星の装いだろう。上下ひとつなぎになった服が腰紐で留められている。細身の体を包む装束はゆったりとして、とくに胸元はよく風を通しそうだ。肩からはおった布切れがなびくのも、涼やかさを演出している。脇に差したエモノはさり気なく、飄々とした印象の青年である。
「どうしてか仲間がいなくて戸惑ってたんだ。目的地は同じだろう? 一緒に行こうぜ、ウルバさん」
 青年のなれなれしい態度に、戸惑ったのは私のほうだった。
 どうやら彼は、はじめから私の名を知っていたようである。私としても、彼の見た目にうっすらと覚えはあった。物怖じのない振る舞い、堂々と晒した刃物から、私と同じく戦いに身を置く者だということもわかる。言う通り、目的地も十中八九、同じだろう。しかし、記憶を深く探ってみても、名前だけが出てこない。彼は、なんといったか……。
 返答に窮していると、更なる闖入者があった。
「きゃるーん☆」
 と、面妖なハイトーンを引っ提げてやってきたのは、背の低い女だった。私と青年のあいだに後ろから割り込んで、顔をのぞかせる。
「わあ、ウルバさんと清修さんじゃないですかぁ。かぁっこいいー」
 清修、そうだ、彼の名前は清修だった。女の言葉でやっと記憶がよみがえる。ところが、またしても新たな謎が投げかけられた。私と清修の名を呼んだ、この女の名前はなんといったか。今度ばかりはまったく見当もつかない。
 幼い雰囲気の彼女もまた、特殊な装いである。丈に余裕のある袖口は、魚のヒレのようなかたち。飾りをぶら下げた帽子が大きく、それがトレードマークのようであるが、やはり見覚えはない。
 呆然とする私をよそに、女はまくし立てるようにしゃべり続けた。
「近くに来たらお仲間がたくさんいるって予想してたんですけど全然いなくってぇ、心細かったんですぅ。道ってこっちで合ってますよね? 一緒についていってもいいですかぁ。ほら、どうせ目的地は同じなわけですし」
「俺は構わないが、ええと、あんたは……?」
 女のことを知らないのは私だけではなかったらしい。清修が眉根を寄せて問いかける。
「ええっ、わからないんですかぁっ!? ほら、ニッカちゃんですよ、暗黒祈祷師のニッカちゃん。一目瞭然じゃないですか。きちんとチェックしといてくださいよ、モグリですよぉ」
「……ああ、思い出した」
 名前を聞いて、清修は心当たりがあったようだ。私には、結局わからずじまいだった。
 ともあれ、我々は思わぬ縁から三人、肩を並べることになった。別に不満があるわけではない。清修がそうであるように、ニッカとやらも目的地が同じことは明らかなのだ。彼女の服装に覚えがなくとも、彼女の服装からして明らかなのである。
 二人を邪険にするつもりはない。しかし、綻びかけた精神を結びなおす必要があるのは事実だ。私は、いまは亡き友リーヴィルについて考えた。リーヴィルについて、考えなければならなかった。なぜなら、私はただのウルバではない。『第24話、亡き友の想いを胸に決戦の地へと赴く星間闘士ウルバ』なのだから。ガワも重要だが、内面の装いも重要に違いないのだ、きっと。
 気を取り直して、私は前を見据えた。東京ビッグサイトは、すでにその全貌を現している。



 後から知った話であるが、会場への道中と帰り、コスプレをしていることは原則、禁じられているらしい。私たちが他のレイヤーを見かけなかったのはそのためだ。以降イベント参加を目論む諸君においては、留意しておくことをすすめる。これは、星間闘士ウルバではなく、イベント初参戦を終えたいちレイヤーとしての忠告である。
 では、よきヲタクライフを。