Neetel Inside ニートノベル
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おんりーわんわんず
高校生

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新品の制服はとにかく動きにくい。今は授業中なわけだが、ノートをとる手は思うように進まなかった。そもそも、入学して間もないこの時期、やることなんてたいしたものでもない。私はハゲの板書なんか見ていなかった。生意気に先の単元を進めていた。
ふと、ざわつく教室内に、顔をあげる。マワリノヒトトハナシテコタエヲミツケナサイ
他の教師は2人組を作らせるが、このハゲは自分の板書の時間が欲しいだけで、喋らせることにこだわらない。
「まわりのひと」は私抜きでも十分お喋りできる。私がいる方ができない、の方が正しい。
私は視線を教科書へと戻した。



今日は機嫌がいい。誰とも会話せずに一日を終えられた。実際日付が変わるまで8時間ほどあるが。
後は最近見つけた商業施設内の学習スペースで21時頃まで時間を潰すだけ。勉強、私の取り柄はこれだけ。しかし、入学直後の課題テストで、1位をとったことは、多少なりとも私に自信をつけた。

「あ、**じゃん、お疲れー」
肩が少しはねた。人の声も少なくない駅のホームで、確かに聞き覚えのある声が私の名前を呼んだ。振り替えると、あぁ、やっぱり。なんて、顔に出さないように、お疲れと返す。こいつの話って聞いてて疲れるんだよなぁ。
電車の中でも声のボリュームを落とすことなく語りつづけたこの人は、一人でいることができない人。パシりでもなんでもいいから誰かにくっついていないと生きていけない、そんな人。中学で嫌われすぎてて私にベッタリだったなぁ、同じ高校受けて落ちてたっけ?犬みたい。犬の方が賢かったり。

誰にでも尻尾をふってたけど、高校でも誰にも見てもらえず、自殺したらしい。葬式は、まあ、あの子の繋がりの狭さが目に見えすぎて呆れもした。私は遺書に、葬式するなと書いているので問題ないだろうが、あの子の親族は閑散としている式にますます気が滅入るのだろうかなど、不謹慎なことばかり考えていたせいか、お焼香をまだ新しい制服につけてしまった。



なかなか白いあとはきえなかった。



     

親子は似る。嫌なところほど。
母も弟も短気。なら、私も短気なんだろうか。

最近母に抱いていた感情、怯えにもにたものが薄れてきた。かわりに嫌悪感が這い上がってきている。
同族嫌悪だろうか。
幼い頃から自分が一番大嫌いだったが、この女も所詮私の親と気付いてしまってからは、作り笑いもできなくなった。


高校1年の晩夏、反抗期にはいる。

     



私の世界は灰色だった。
白黒はっきりしてなくて、いつも自分を第三者の視点でみてた。自分も他人もどうでもよかった。
どうでもよかった。
でも、雨は違った。
私の所有物。私が主。


「また1位!?すごいじゃない」
母がやけに上機嫌だ。
「別に、今回も簡単だっただけ」
少し前なら母に合わせて作り笑いでもしてたんだろう。
そう考えると、前の私と今の私は同じモノでは無い気がしてきた。
目の前のこいつも、本当に私の母親なのか。
こいつ、こんなかおしてたっけ。
こんなこえだっけ。
あれ?
アレ?
アレ???????????


「……だし、て、あんた大丈夫?顔色悪いよ」
「ごめん。もう寝る。」
もう言葉も理解できなかった。
自分が霧散してしまうような感覚になった。

布団にはいっても息が荒くなるばかりだった。
呼吸って、いつもどうやってたっけ。
苦しい、苦しい、苦しい苦しいくるしいくるしいくるしいくるしいクルシイクルシイクルシイクルシイクルシイクルシイクルシイクルシイクルシイクルシイクルシイクルシイクルシイクルシイクルシイクルシイクルシイクルシイクルシイクルシイクルシイクルシイクルシイクルシイクルシイ






いきなり、鼻の感覚がはっきりした。
雨だ。雨が、私の鼻をなめたんだ。
少し汚れてきたそのからだを撫でる。
するとすこしずつ、だけどはっきりと、私の手の輪郭が感じられた。
ああ、私はまだ私だ。
糸が切れるように眠りについた。
その日は嫌な夢は見なかった。


       

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