Neetel Inside ニートノベル
表紙

恐怖!おちんぽくるりんぱっ病(他短編)
狂気!悪魔降臨

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多田野三太郎「はあ…」



多田野三太郎は溜息をついた。

彼は仕事の休憩時間に、会社から離れた公園のベンチでストロングゼロのダブルレモンを飲んでいた。



三太郎「死のう…」



彼は仕事ができず会社でのけ者扱いにされており、社内に居場所は無かった。



三太郎「思えば小、中、高、大学と虐められなかった事はなかった」

三太郎「俺が死ぬ前に、せめて俺を虐めた奴らだけはぶち殺してやりたいけど…」



三太郎は時計を見て休憩の終わりを確認し、大量のブレスケアを口に放り込んで再び溜息をつきながら、重い足取りで会社に向かっていった。



-pm 6:00-

する事が無くなった三太郎は荷物をまとめた。

階段までの廊下を歩いている最中、通りすがった部屋から歓声が上がった。

そこは三太郎が以前所属していた部署だった。

ひとりの社員を皆で取り囲み、笑顔で祝福していた。



部長「池君!ノルマ200%達成おめでとう!」

女「凄いわ池君!」

池面太郎「いやぁ、部長のご指導の賜物ですw」

部長「人当たりが良いからな君は。

契約なんてお茶の子さいさいだろ?」

池「いえいえ、部長のお仕事ぶりには敵いませんw」

部長「ハハハこいつめw

じゃあ今日は俺の奢りだ!池君のお祝いに飲みに行くぞ!」

女「キャー部長ステキ!」

部長「まったく同期の池君がきちんと成果を出しているというのに、あいつときたら…おい多田野!」



空気が張り詰め、皆が冷たい目で入り口の方を見る。

三太郎は狼狽える。



三太郎「ニッ…すみみゃせん、失礼しま…」

部長「おい待て。」



部長は苛立った様子で三太郎を呼び止める。



部長「お前恥ずかしくないのか?

何もせずに給料だけ貰って会社にしがみついて…」

「言っとくけど今のお前、完全に寄生虫だぞ?」

三太郎「アッ…ハイ、すみませ…」

部長「口だけの謝罪はいいんだよ!!

もういらないよお前。

辞めていいから」

池「部長、彼はちょっとズレてるんですよ。怒るのも無理はないですが、大目に見てあげましょうw」

部長「池君は優しいなぁ」

「ま、今夜の飲みでウチの会社の未来についてゆっくりと話そうじゃないか」



三太郎を見るものは、もう誰もいなかった。



-帰路-



三太郎「無能だから帰るのも早いわ…ハハ」

三太郎「たまには古本屋にでも寄っていくか…」



三太郎は立ち寄った古本屋で悪魔召喚の指南本を手に取った。



三太郎「悪魔の召喚か…暇つぶしに買っていくかな…」



-家-



ハナコ「にゃお〜ん」

三太郎「よしよし…良い子にしてたか…」



三太郎は唯一の生きる理由である愛猫のハナコの餌を皿に入れ、死にそうな顔で微笑んだ。



三太郎「お前だけが俺を拒絶しない…。」

「いや、お前以外には、唯一小学5年生の時に死んだお母さんだけが俺を愛してくれたっけな…」



三太郎は買ってきた本を読み進めた。



三太郎「ふぅん…こうやって召喚するんだなあ。位の高い悪魔ほど様々な事を実現できるが、代償も大きい、か…」

三太郎「今更俺に代償…ハハッ」



三太郎は自虐的な笑いを浮かべ、遊び半分で召喚の手順を踏み始めた。



三太郎「まず身を清める作業か…シャワーでいいや」

「ローブを着るとか言われても持ってないわ。新しく買ったパーカーでいいや」

「目の周りに聖油を塗る…オリーブオイルでいいや」

「性的禁欲をしているのが望ましい…もう性欲なんてねえよ。気力が無くて1ヶ月はオナニーしてない」

「社会的交流を避ける、か。

会社に行っても誰にも挨拶をする事なく追い出し部屋に行き、意味のない資料を作成するだけだからな。あといじめは交流と呼ばないし」

「ワンド、ソードもしくはダガーか。模造刀なら過去にオークションで落としたものがあるな。杖は無いから突っ張り棒でいいや」

「獅子の皮のガードル…?ないから腹巻でいいだろ」

「蝋燭、香か。最近おばあちゃんの葬式があったからまだ残りがあるはずだ」

「シジルを作成…?悪魔の紋章を彫り込んだ金属の事か。鉄の定規にはんだで適当に悪魔の紋章書いとくか」

「指輪と、六芒星、五芒星が描かれたものか。サービスエリアとかで売ってんだよな。紋章とか書かれた金属のキーホルダーみたいなやつ。あったぞ」

「用意したアイテムを聖別する必要がある、か。いくつか種類があるが、杖による聖別が一番簡単そうだ。」

「アイテムを置いてと…。」

「祓いの言葉と聖別の言葉を述べるぞ」

「私欲から解放され、清浄な意志は、何処から観ても完全である。

我は汝の心臓の中で意気高揚せられ、汝の肉体には星々の接吻がとめどなく降り注ぐ。」

「これでいいかな」

「魔法円と魔法三角を作る、か。魔法円の中に入って身を守り、魔法三角の中に悪魔を召喚し閉じ込めるのか」

「いくぞ…」



三太郎は香を焚き、蝋燭に火をつけ、召喚の為の呪文を唱える。



三太郎「我は汝を求め、そして呼び出す、悪魔よ。

至高なる神の力を得て、我は汝に命じる。

我は汝を召喚する、汝を呼び出す呪文によって。

語り、それを果たした、全ての創造物を従わせる彼によって。

汝、直ちに、我が場所、この円の前へと現れよ、正しき人の姿で!」



部屋は静寂に包まれる。



三太郎「…」

「ハハ…ハハハ…」

「ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ」

「うぎゃああああああああ!!!!!!あああああああああああああああ!!!!!」



三太郎は叫ぶと本を窓に叩きつけ、窓ガラスはちりぢりに四散した。



バリィィィン



三太郎「あああああああ!!!!もうやだああああああああああ!!!!!!」



三太郎が発狂していると隣人が玄関ドアを蹴り飛ばし抗議した。



隣のおっさん「うるせえんだよボケガキがああああ!!!!

今何時だと思ってんだ死ねボケガキがああああ!!!」



三太郎「ああああああ!!!」



三太郎は何故かドアを開けてしまった。



隣のおっさん「オラァ!」ドグォ

三太郎「オエエエエエ」



隣のおっさんの拳が三太郎のみぞおちに直撃し、三太郎はゲロを吐きながら倒れた。



隣のおっさん「うわっきたねっ。お前今度騒いだら罰金な。」



隣のおっさんはゲロまみれになってうずくまる三太郎に唾を吐き、部屋に戻っていった。



三太郎「死のう、今。」



三太郎はゲロまみれのまま立ち上がり、台所の包丁を持って首元に突きつけた。

そこに先ほどの騒ぎで完全に怯えてしまったハナコが、恐る恐る三太郎の様子を見にきた。



三太郎「ハナコごめんな。

俺死ぬわ。

誰かに貰われてくれ。」



ハナコ「ニャン…」









その時、世界が反転した。









三太郎は逆さまに身を投げられたかのような感覚を覚えた。

意識がぼんやりとし、はっきりした時には目の前の光景が見慣れたものでは無くなっていた。



宙に浮く体。

永遠に続く薄暗い空間。

肉の腐った様な臭い。

呻き声。

夏場の様な蒸し暑さ。

そこに元の世界は無かった。



三太郎「え、うわっ!なにここ!」

「誰かいますか!?」



返事は無い。



「助けて!助けてくれ!」

???「怖がる事はない」



空中を移動する存在。

人の姿をしていたが、人間ではなかった。



「だ…誰…?」



???「汝が呼んだのだ。我を呼び出したというのに死のうとは勝手なやつだ」

三太郎「えっ…え?悪魔…?」

???「しかし、その無秩序さは気に入った」

公爵「我は地獄の大公爵、オロデリウスである。」

三太郎「オロデリウス…」



三太郎は完全に気圧されていて、みじろぎひとつできなかった。

悪魔の外見は正に異形のものだった。

骸骨のような顔が真紅に染まっており、眼窩の中からは赤い瞳がぼんやりと光っている。

頭部からは黒い角が対照的に6本生え、服装は黒と赤の配色の礼装を身に纏っている。

大公爵と名乗る悪魔の外見からは、格式高く力のある悪魔だという事が感じられた。



三太郎「た、助けてください…殺さないで!」

公爵「何故死ぬことを恐れる。

死のうとしていたのだろう。」

三太郎「悪魔に殺されたくない!」

公爵「汝が殺されるのではない。

汝が殺すのだ。」

三太郎「え…」

公爵「汝は憎いのだろう。この世が」

三太郎「はい…」

公爵「ならば成し遂げる力を与えよう」

三太郎「力とはなんですか…?」

公爵「念じた相手を虚無にする事が出来る。

相手は世界から消滅するのだ」

三太郎「本当に…?」

公爵「ただし、汝とは取引を行う」

「小癪にも神の加護を得た状態で、我を呼び出そうとした代償だ」



三太郎を守る魔法円、道具類は既にそこにはない。



三太郎「いいいやそのあのすみませんでした。ただマニュアル通りにやっただけなんで…」

公爵「汝と共に暮らす獣の魂を貰う」

三太郎「え…ハナコ…?」

公爵「そうだ。あの獣を我に捧げよ。

さすれば復讐の為の力を与えよう」

三太郎「ハナコを…いや、そんな馬鹿げた事は出来ない。大体復讐なんてしたって俺が幸せになれるわけじゃ…」

公爵「汝よ、ではどうしたら幸せになれるというのだ?」

三太郎「…」

公爵「幸せとは何か知っているのか?」

三太郎「それは…皆に認められたり…一緒に遊んだり…」

公爵「幸せとは刹那的な満足感の事だ。

復讐すれば汝の気は晴れるだろう。それは幸せではないのか?」

三太郎「でも、それはその場しのぎで意味ない…。

もっと…未来まで続くような幸せを俺は…」

公爵「そんな幸せは幻想だ。

汝に未来などというものは存在しない。」

「そもそも時間などというものも、お前があると思い込んでいるだけのものだ。」

「一瞬は永遠に等しい。汝が今最も望んでいるのは復讐だ。それを果たす事が幸せでなくて、何だというのだ。

一瞬であり永遠の、幸せを手に入れたくはないのか?」

三太郎「うう…」



三太郎は葛藤していた。



三太郎「ハナコを捧げるなんてそんな事は出来ない。

自分の意思でハナコに手をかけるなんて…。」

公爵「ならば見せてやろう。

お前の憎き敵の様子を。」

三太郎「えっ…」



三太郎の意識が遠くに飛ばされ、池面太郎が他の同僚と話しているところが見えた。



同僚A「しかしスゲーよな。あいつほんとマジでなんも出来ないんだもん。」

同僚B「ああ、あののび太くんかw」

同僚A「池はどう思う?あいつw」

池「俺最近こっそりあいつのケータイの中見てみたんだけどさ、なんかアルバムの中にキモいアニメの女の画像と、飼い猫の画像ばっか入ってたよw」

同僚A「きっつw」

同僚B「猫飼ってんのかよww可愛そう猫www」

池「あいつって今までもずっとあんな感じで虐められてきたんだなって感じするわ」

同僚A「池のいいおもちゃだなwあいつ池がハメたらどんどん嫌われていったんだっけ?」



三太郎は目を丸くした。

三太郎「ハメた…?どういう事だ?」



池「部長が上から叱られてた時、多田野が笑ってたって逐一報告してた話なw」

同僚B「お前凄えなwww」

池「それまでは部長も多田野の事不器用だけど頑張ってる奴だって思ってたけど、なんか見ていてイライラすんじゃんあいつ?だからハメてやったwwww」

同僚A「ナイスプレーwwww」



彼らの話を聞いた三太郎の目は、黒く濁っていった。



公爵「どうやら汝を陥れたのは彼奴の様だな。

三太郎よ、汝は悪に憧れた事はないか。」

三太郎「悪…。」

公爵「そうだ、悪だ。

何者にも屈せず、逆らう者を屠り、従う者から奪い、黙らせる。」

「悪は何者にも心を許す事なく、全ての者から奪い続ける。

その存在をかけて。」

「悪に必要なものは力だ。

悪は奪われてはいけない。

奪うのだ、全てを。

憎き宿敵から全てを奪った時に、悪の心は甘美な幸福で満たされる。」

「我は汝にその力を与えし者。

その為にここに召喚された。」

「願え。

偉大なるこの大公爵に、悪を成し得る為の・・・破壊の力を。」

三太郎「うぁ…ああああああああああああ!!!!」

「捧げます!!ハナコを捧げます!!だから俺にあなたの力を下さい!!大公爵様!!!」



公爵は眼窩の奥の赤い目を鋭く光らせ、二つに分かれた真っ青な舌を出して微笑んだ。



公爵「よかろう。この大公爵の力をもって、悪魔の力を汝に捧げよう。」

「復讐を果たすが良い。三太郎よ。」



ハナコが空間に現れ、空に浮く。公爵は手をかざし、拳を握ると同時にハナコの体はめきめきと音を立てて潰れていった。



ハナコ「ギニャン!ギニャアアアアア!!」



メキメキッ!ギチッ!グチチッ!パキッ!

ブシャッ!



ハナコだった肉片からキラキラと輝く光の玉が浮かび上がり、公爵の掌へ飛んでいく。



三太郎「ハナコ…っ!」

公爵「素晴らしい。

愛と希望、絶望と悲しみ。

様々な感情が混じった至高の魂だ。」



ハナコの死を目前にした三太郎は、焦点の定まらない虚ろな目で、ぶつぶつと何か呟いていた。



三太郎「俺は…俺は悪くない俺は悪くない。

あいつらが、あいつらがハナコを殺したんだ。

あいつらが。」

「消えちまえ…あいつら。

今すぐに消してやる!」



三太郎は力を使った。

虚無が池を含む会社員達の元へ現れる。



池「うおっ!?

えっ!?なにこれ。

黒い塊?えっまじなんなの。

これ。」

「インスタしよ…。

なにこれマジで。」



虚無は広がり池の体を飲み込む。



池「うわぁ!!なんだこれ!取れねぇ!

誰か!お母さん!怖いよ!助けて!誰か!!」

「あああ!あああああ!!

ぎゃああああああああ!!!!!」



池は虚無に飲み込まれた。

同様に他の者達も飲み込まれていった。

同僚A「誰かああああああ!!!うがあああああ!!動けねえ!!助けてえええ!!おふくろーっ!!」

同僚B「いやああああああ!!ひいいいいい!!あああ死ぬ…死んじゃう…あああああ!!!!ママーッ!!」

部長「ひいやああああ!!」

部下「部長!」

部長「近づくな!!早く逃げろ!畜生!畜生畜生!!ああああああああ!!!」



虚無は次々と人々を飲み込んでいった。

三太郎は公爵の力で地球を俯瞰して見ていた。



三太郎「公爵様…この虚無というのはどこまで広がるんですか。」

公爵「教えてやろう。」



公爵は舌舐めずりをする。



公爵「全てだ。

全てを喰らい、葬り去るまで虚無は広がる。」

三太郎「えっ…」

公爵「もう汝は飲み込まれている。」



その時三太郎は、公爵と口ではなく、思念によって意思疎通していた事に気がついた。



三太郎「なんですかこれは!?

復讐する相手だけ飲み込むのでは無かったのですか!!?」



公爵「有と無が同時に存在する事は出来ない。

無が存在する時点で、全ては無。

それがこの世の理だ。

汝が我と言葉をかわすことができるのも、我の契約によって契約者の魂を留めているからだ。

契約者の魂が自らの力によって滅びる事はない。

またこの贄も、世界から我に捧げられたものであるからして、いつ滅ぶかは我が定める。」



三太郎は公爵の力によって、世界すらない場所に存在していた。

ハナコの肉片も、そのままの状態で留まっている。



公爵「契約は果たされた。

我は去る事としよう。」

三太郎「ふざけんなこの悪魔!!俺の体を返せ!世界を元に戻せ!ハナコの命を返せよ!!」

公爵「何を言う。体も、世界も、獣も、全て汝の意思で捨て去ったものではないか。

我は汝から何も奪ってはいない。」

三太郎「そんなのは詭弁だ!俺を騙したんだろうがこのクソ野郎!返せ!全部元に戻せ!契約なんてクソ食らえだ!」

公爵「無駄だ。

己と世界を喪失した状態で、何かを叶える事なぞ不可能だ。

それこそ神や悪魔にでも成らぬことにはな…ククク。」

三太郎「嫌だ!嫌だ!嫌だああああああああああああああああ!!!!!ぶっ殺すぞ!!!

嘘だ!早く元に戻せ!!!嘘だ!嘘だあああああああああ!!!!!!」

公爵「さらばだ復讐者よ。」



公爵は虚無の中へ消えていった。



三太郎「うわ…うわわ…あが…ヒィャああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」



無限に続く虚無の中で、母の名から命名した「ハナコ」の肉片だけが三太郎の全てだった。



END

       

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