Neetel Inside 文芸新都
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腐蝕三角標識
休転日の夜

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夜でもプラントから生暖かい気体が漏れ出てくる。ダクトから正々堂々吐き出されるもの。スペック落ちした防壁と防壁の継ぎ目から漏れ出るもの。それらは明らかに大気より重く、熱をまとって粘っこく地表へ落っこちる。その後ゆっくりと上昇する熱は空に舞う塵を核に水をまとい…要するにこの街では月が見えない。
この工業特区では。
住民は淡く輝くスモッグに包まれて床に就く。

そんなこの街でも何回かはスモッグが晴れる夜がある。休転日だ。ただの休転日じゃない。複数のプラントの休転日が重なってようやく本物の夜がこの街に降りる。
住民は壁から伝わる冷気に夜の寒さを思い出す。箪笥からありったけの衣料を引っ張り出してベッドに積み上げるのだ。毛布なんてあろうはずもない。そうしてベッドにもぐりこみ日の出を待つ。

本物の星の光を拝もうとぞろぞろと這い出てくる奴らもいる。屋上が崩れていないビルに住む幸運な住民のうち、アルコールをキメて月の光に脳をやられた連中だ。

ああ、夜空ってこんな感じだったな。
おう、意外と明るいもんだ。
どこ見て言ってんだ?上見ろ、上。

柴田水平太ことスイヘーも星が好きだった。休転日の夜は屋上に出る。
気温が下がったからか、もしくは、本当に何かインタラクションがあったのだろうか。明滅する彼の頭部。脈打つインパルスが、淡い、彼のノスタルジーなのか、小さな天の川を創っていた。
クソ寒い夜空でもスイヘーの頭は暖かい。

アルコールでやられた連中は天上の2等星やら3等星やらを眺め、スイヘーを驚嘆の目で眺め、脇腹が痛み始めた頃合いにふらふらとねぐらに戻っていく。

スイヘーも、頭が冷え、こめかみの明滅がゆっくりになると、のそのそとビルに戻っていく。




夜が明ければおせっかいな仕様のバッチプログラムが、狂気のスケジューラが、新しい親プロセスを子プロセスを孫プロセスをひ孫プロセスを立ちあげてプラントの導線に熱を入れるだろう。作業員にはさっぱり理解できない謎のプロトコルがうなりを上げて走り始めるのだ。

ただ、そうなる前にもう少しだけ静かな夜が続く。
住民たちはいつもより深い眠りを、深い夢を見るだろう。
今日は休転日の夜だから。

       

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