「で、あんた達が俺を襲ってきた理由をまだ聞いてなかったよな?」

 内輪話で盛り上がる千我と白木屋に割って入るように俺は再び腹に力を入れて声を出す。腹が減っているのかメニューを片手に取っていた千我が表情を戻して俺の方に向き直った。

「別に俺の撮ったインドマン動画が伸びてて気に入らなかった、っていう理由でもいい。あんた達、普段から他人に迷惑かけてるみたいだし」

「それは誤解っすよ~日比野さん」ひんまがった口でコーヒーカップをすする白木屋を見て昨日ユーチューブに上がっていた「しろきーのアポなしチャレンジ!レジャー施設で出てくるビーフカレー、全てボンカレー説を検証!」の内容を思い出して俺は溜息を吐く。

 動画の最後にシェフを呼びつけた白木屋が店長から注意を受けて出禁になるという最悪のオチで終わる20分超の大作実写動画だ。

「やだなぁ、日比さん。せっかく人気に火の着いた面白ユーチューバーを潰すために俺達がこんな田舎まで来た訳ないじゃないですか~」人気ゲーム実況者の悪意のあるモノマネで再生数を伸ばしている千我が笑う。

「アンタは俺に動画配信者を引退しろと言った」「それは言葉の綾、波レイ」カップをテーブルに置いた白木屋が千我の方を向いて黄ばんだ歯を見せる。「千我ちゃん、教えてやりなよ。どうやらこの人、本当になんも知らんらしいぜ」

 白木屋にそう言われて千我はテーブルの上にのっそりと太い腕を伸ばした。そして手の平を開くと目をかっ開いてこう、発声した。

「カード!チェック!」千我が声を上げると手の平の上にホログラムのような光が産まれ、薄く青色が着いたカードが数枚回転しながら浮かんだ。向かいのボックス席に座る女学生のグループが不思議そうにこちらを振り返った。

「安心してください。一般人には見えない仕様らしいです」千我の言葉を受け流し俺はくるくると回るカードの絵柄を眺めた。それは漫画や映画で観たことがあるタロットカードのように見えた。

「日比野さんもやってみてくださいよ」白木屋にせがまれて千我と同じように腕を伸ばして声を出す。「カード!チェック!」すると手の上に5枚のカードが現れた。それを見て白木屋がテーブルの上に飛び乗るようにしてその絵柄を睨んだ。

「オレ達から奪った『戦車』と『魔術師』の他に『帝王』と『節制』、それに『愚者』のカード」「へぇ、『節制』持ってたのか。知らなかった」自分のカードを引っ込めて俺の手札を眺める千我に俺は声を返す。

「そういえば闘う前にカードがどうとか言ってたな。それがこの5枚のカード?」「ええそうです。アクターは最初にランダムで3枚のカードを与えられる。インドマンが俺たちとの戦闘で勝利したから俺の持つ『戦車』とこいつの『魔術師』が新たに手に入ったという訳です」

 俺は突如、頭痛がして手の平を握ってカードをしまうイメージを浮かべた。ホログラムが消えてカードが目の前から消えた…そういえば千我の言うとおり、このふたりとの戦闘終了後に二枚のカードを手に入れたのを思い出した。すると近くの席から中学生くらいの男子ふたりがこっちのテーブルに来て緊張気味に話しかけてきた。

「あ、あの!ユーチューバーの千我ちゃんですよねっ!」名前を呼ばれて千我が大きく構えた態度を取って少年に向き直る。「おう、そうだけど」「やっぱりそうだ!」「動画、いつも見てます!…良かったらサインもらえませんかっ!?」

「しょうがねぇな~ほれ」手渡されたペンを握り、テーブルの紙ナプキンに自分のサインを書いた千我がそれを少年ふたりに手渡した。「ありがとうございますっ!最後にいつものやってもらえますか!?」

 せがまれて千我はひとつ咳払いをして顔の前でぱぁっと両手を広げた。動画の一番最初の行われる自己紹介だ。「ども~千我ちゃんで~す♪」「あはっ!マジで本物!」「ありがとうございました!これからも頑張ってください!」

 ぺこり、と頭を下げて受け取った紙ナプキンを両手で大事そうに握り締めて少年ふたりは一目散に自分達のテーブルに戻っていった。「ははっ、学生相手に頑張って、っていわれちまった」恥ずかしそうに鼻の下をさすって千我が小さくはにかんだ。

 俺は突然の乱入に口を開いてボケっと事の成り行きを見守るしかなかった。昨今のユーチューバーブームにより、こいつらのような悪役ヒールにもある一定のファンはいる。

「話の途中でしたね。カードの話でしたっけ?」少年達に気付いてもらえずに悔しかったのか、白木屋が面白くなさそうに話を盛り返した。

「アクターは最初にそれぞれ3枚のカードを受け取って、戦闘でカードを増減させます。相手に勝てば自分が持っていないカードを手に入れる事ができ、負けたら相手にカードを一枚奪われます。
タロットカードは全部で13種類。これを全部コンプリートする事が年末に行われる、さっきオレが言った『アクター・ロワイヤル』に参加する条件っす」

 白木屋の説明を聞いて俺はこいつらの行動すべてに合点がいった。アクターの能力を手に入れてカードを集めるためにふたりで手を組んで俺のカードを奪いに来た。でも、考えるたびに疑問は増えていく。

「カードの説明は分かった。今度はアクターの能力について聞かせてくれっ!?」俺がふたりに訊ねたその時、目の前の空間がぐにゃりと曲がり、黒と赤の渦がファミレス中を取り囲んだ。

「他のアクターの襲撃です」千我が立ち上がって入り口の方を睨む。「ステージセレクトしたか。ま、さすがに人が多いからね」白木屋も腕のバンドを眺めながら声を伸ばす。

「口で言うより実際に経験した方が早いでしょ。一日に2回戦は厳しいよ~」「おしゃべりは終わりだ…来るぞ!」

 千我が俺たちに声を張る。店内のガラスが真っ暗に包まれて俺たちの身体は亜空間を模した別のステージに浮かんでいた。