「変身!マスク・ザ・アレグロ!」

 視界の悪い霧が立ち込めた不気味な空間で後ろの方で千我が変身ベルトを回す。「なにやってんの。早くしないと顔こんなになるよ」白木屋が俺に殴られた左頬を指差しながらバンドのスイッチを押す。

 俺はふたりの中心に立ち、腰に巻かれたチャクラベルトに指を置く。

「行くぜ!インドマン!」光に包まれて変身を終わらせると目の前から背の高い三色のカラーリングがフォームに施されたアクターが手に握った洋剣の刀身を肩でぽんぽんとリズムを刻むように構えながら現れた。

「やっと変身を終わらせたみたいだなぁ、ひよっこどもぉ~」好戦的な高い声を響かせながらゆっくり近づいてくる敵アクターを見て俺は体の前で構えを取る。ペストマスクに鬼のような二本角が生えた仮面をつけたその男は俺たちに向かって口の中で笑い声を転がしている。

「お前らみたいな雑魚で固まってる連中を探してたんだ~さっさとオレ様の養分になりなぁ~」「こっちは3人いるんだ。なめんなよ!」アレグロが俺と闘った時と同じように低い姿勢から沈み込むようにして敵に突進を仕掛けた。相手の腰に腕を回してそれを掴んでその場で動きを止めるとイル・スクリーモに変身した白木屋が飛び掛る。

「まぁずは初手で重心を崩しに来たかぁ」スクリーモが相手の前で大きく口を開いた。大声で相手の中枢神経を麻痺させる作戦だ。「させねーよ。このクソ雑魚がぁ!」「!?」

 喉を引き上げたその瞬間、スクリーモの口から爆炎が吹き上がった。「おい、どうなってんだ!?」舌を焼かれるように苦しみながら顔を押さえてその場にうずくまるスクリーモにアレグロが応答願う。腕の力が緩んだ瞬間を見逃さずに敵の男がその場からエスケープ。

「本格的に闘いに入る前に自己紹介させてもらおうかぁ」目の前に現れた背中にカラスの羽のようなマントを羽織ったその男は再度その場から飛び上がって高い場所に立って俺たちを見下ろして言った。

「俺は最強のアクターの座に着く男、ミル・トリコ!所持スキルは“炎熱”だぁ!有象無象、十把一からげあくたかえしやがれ!」

「ミル・トリコ?」「どっかで聞いたような声だな」名乗りを挙げた敵アクターを見上げてアレグロと俺は呟く。すると目を離した隙にミル・トリコがアレグロの首元に手を掛けていた。

「こいつ、なんて早さだ!」「オマエのスキルはさっき見せてもらったぁ!燃え上がれ!」握り締めたグローブの先から黒い炎が現れて息つく間もなくアレグロの身体を覆いつくした。悲鳴をあげる時間もなく炎に包まれたアレグロの体躯がその場に崩れ落ちた。

「さて、これで二体片付いたぁ。オマエはなんだ?こいつらのサポートか?どうせ大した事ないんだろうけどぉ」腰に手を置きながらミル・トリコが俺を見下したように先の尖ったブーツで俺の脛を蹴った。

 目の前でふたりが焼かれて頭に血が昇った俺はそのふざけた野郎に鉄拳を振り下ろす。「インドぉ!」法輪の力によりスローになった相手の動きに合わせて拳を突きたてたはずだった。「なにが『インドぉ!』だっ!」すんでの所で掴まれた拳から火が巻き上がるのが見えて慌ててその場から飛びのく。

「終わらせるぜ!決めワザだぁ!」ミル・トリコが右手を掲げると空中に腰に差していた洋剣が浮かび、それを握ると刀身を炎を包み込んだ。どうやらこのアクターは手で握ったものに炎を纏わせる事が出来る能力を持っているようだ。

「えっと、魔人モード!」目には目を。剣には剣を。俺は剣を扱う事が出来るムルガンのガシャットをベルト横のケースからまさぐるが焦ってその場に落としてしまう。

「塵になれ!『フレイム・タンブレイド』!」はっと正面を見上げたが遅かった。視界を真っ赤に燃え盛る火炎が包み込み、気がつくと俺は他のふたりと同じようにファミレスのテーブルの上に仰け反っていた。


「三人相手に勝負あり!このカードはオマエらより俺に相応しい!『帝王』のカードを一枚ずつもらっていくぜぇ!」高笑いが遠ざかると意識を取り戻した千我が乱れた髪を書き上げて俺に言った。

「…これが一般的なアクターバトルです。相手に勝負を仕掛けて相手からカードを奪う。持ってるカードがゼロになるとゲームオーバーになります」

「そのゲームオーバーになったらどうなるんだ?」「分かりません。まだアクターバトルは先月始まったばっかりでまだカード・ゼロは出てませんから」「くっそ、あの野郎。疲れてなかったら一撃くらい入れてやれたのによー」

 白木屋が恨み節をいうようにぶつぶつとテーブルから顔を上げた。「アクターバトルで負った傷は残りません。でも人間体で受けた場合は除きますがね」千我に言われて俺は白木屋の左頬のガーゼを見つめる。

「アクターの強さはどうやって変わる?」「ああ?さっきのアクター物凄い強さでしたもんね。アクターの強さは変身前の自身のスキルによって変わります。俺は格闘技やってるからプロレスの“肉体強化”をスキルにしてますし、
コイツみたいに大声出して人を驚かせるのが得意なヤツは“中枢神経の麻痺”をスキルにしてます」

「そのスキルって言うのは増やせるのか?」俺はさっき敵が自ら手の内を明かして襲い掛かってきたのを思い出していた。3対1で勝負を仕掛けるなんて、自分の能力によっぽどの自信がないと出来ない芸当だ。

「いや、基本的にスキルはひとアクター1個っすよ」白木屋が千我の代わりに俺に答える。「インドマンみたいに道具で全く別のアクターに変わる相手なんて自分は見たことがないですね」千我に言われて俺は少し自分の能力に驚いた。

「アイツは多分、だまし討ちでカードを集めてんすよ。対策を取れば次は負けない」白木屋が力強く拳を握った。「今はアクターの能力もクラウド化みたいに他者も共有できるようになってるんですよ。ラ・パールでアクター登録してネットのマイページで確認できるんで」

「アイツ、3枚同じカード持っていきやがったな」「おそらくあいつも他の誰かの協力してカードを集めているんだろ」千我が白木屋に答えて考え込むようにして腕を組んで椅子の上で仰け反った。空になったコーヒーカップの底を眺めながら白木屋が俺に言った。

「でさぁ、闘ったときに思ったんだけどよぉ。日比野さんも俺たちの仲間にならねぇ?」「はぁ!?何言ってんだ!」驚いてその場を立ち上がっていた。どうして散々嫌がらせを受けて妹を誘拐までした相手と手を組まなければならないんだ。千我が落ち着いた口調で俺に言った。

「俺からもお願いしますよ。インドマン強いし、アクタークラウドで情報共有できるし」俺は考え込んだ。「また妹誘拐されるような事、あってもいいんですか?」白木屋の言葉を跳ね除けるように顔を上げて俺は決心をふたりに伝えた。

「わかった。お前たちふたりと手を組もう」「おっ」「やった」「ただし、条件がある」

 俺の提案に目を丸くする千我と白木屋。暗くなり始めた外の景色に血のような夕焼けが鮮やかに落ちていった。