廃品置き場で拾ったベルトを腰に巻きつけ悠々と家路を歩く俺。途中、散歩帰りの子供が俺を指差して母親に「ねぇ、ぼくあのライダーベルト欲しい」なんて言ってたが母親が即座に俺を汚物の扱いで子供から遠ざけたので俺は少し居た堪れない気分で商店街の細い路地を曲がった。

 すると見慣れたツインテール頭が目に入る。妹の六実が制服を着た友達の女の子と楽しげに会話を楽しんでいる。レポートは書き終わったのだろうか。すると正面からガラの悪そうな2人組みの男が近づいて六実とその友達に声を掛けた。

「ねーねー。キミ達可愛いねー」

「良いお小遣い稼ぎあるんだけどやってみないー?」

 陽に焼けた顔を近づけた男の顔を払うようにして「うざ」と六実が言うと「何?ナンパ?そういうのマジ迷惑なんすけど」と気の強そうな金髪の友達が蔑んだ表情で男達に言い返す。

「こんのクソガキャ…とりあえず連れてくぞ」男の一人がそう言うと六実たちの背後に周りんでクロロホルム的な液体が染み込んでいると思われる布をその口許に当て込んだ。

「ちょ、なにすんの!?……スピームニャムニャ」一瞬でオチたふたりを引き摺るようにしてヤクザ二人は路地の奥に停めてあった黒塗りの車の後部座席に六実とその友達を投げ込んだ。ふたりは車に乗り込むとすぐに重たいエンジンのキーを回した。

 …おいおい。白昼堂々目の前で誘拐っすか。妹が攫われるとなれば日和主義の俺とて見逃す訳にはいかない。俺は走り出した車のナンバーを持っていたペンで食材の書かれたメモに書き込むとその行き先を足で追った。

 幸い今の時間は帰りのラッシュアワーで車が信号で停まる度に追いつくことが出来た。運動不足の二段腹が揺れている。汗を拭いながら追いかけると車は港の倉庫の前でエンジンを切った。

 車から降りた2人組みは車内から少女ふたりを担ぎ出し、力強くドアを閉じると遠隔で倉庫のシャッターを開けた。気付かれないように閉まり際を狙って俺は体を滑り込ませる。まるでスパイアクションだ。連続する非日常体験で心の臓がハードビートを波打っている。

 俺は広い倉庫の物陰を飛び移るようにして中央で眠っているふたりを縛り上げる男達の動向を見守る。男の一人が携帯電話を取り出して誰かと会話を始めた。それを見て俺もしかる所に位置情報を知らせるべく発信をかけた。やっと目を覚ました六実が男を見上げて金切り声をあげた。

「ちょっと!あんた達どういう事!こんなやり方、まるで誘拐じゃない!」六実の声で彼女が意識を取り戻した事に気が付いたもう一人のヤクザ者が六実に顔を近づけて凄んだ。

「あー?うっせーな。その通り誘拐だよ」

「私たちをどうするつもり!?」六実の隣で縛られている友人も声を上げる。「さて、どうしようかな」余裕と悪意がミックスされた笑みを浮かべると六実たちを見下ろしてヤクザが言った。

「キミ達のような将来性のある女を風俗街に売り飛ばす。俺たちに旨い酒を飲ますために働いてもらうんだよ。お嬢ちゃんだってこんなクソ田舎から都会に出られてWin-Winだろ?」

「ふざけんな!誰がお前らのいう事なんて聞くもんか!!」「この状況でまだ強気か。いいねぇ。愉しみ甲斐がある」

 男はそう言うと憎らしい笑みを浮かべた後、舌なめずりをしてベルトのバックルに指をかけた。「やべーぞ!レイプだ!!」最悪の展開に俺は思わずその場に登場。汗まみれの姿を現していた。

「あ?誰だおまえ」「…めんどくせーな。ツケられてたのかよ」

 男二人が俺に近づいてくる…!「お、俺の妹に指一本でも挿れてみろ!ぶっこぉしてやりゅぅ!1!」威勢のいい声とは逆に足が震え、上と下の歯が恐怖でガチャガチャと揺れ動く。「てめぇが去ね」男の腕が大きく振られ、左頬に鉄拳がぶち当たる。痛ぇ。

 脳が揺れて首がひん曲がりそうな衝撃で俺の身体が吹っ飛んでドラム缶に叩きつけられた。涙で視界が歪んで口の中に充満した血液が唇から床に零れ落ちる。ワンパンでこのダメージ…相手はなんかしらの格闘技経験がある。駄目だ。かてっこねぇ。男が近づいてきて首根っこを引っ張り上げられる。

「あ?なんだこのだせーベルト」男が反対側の手で俺のベルトのバックルをガチャガチャ擦った。「はっ、ヒーロー気取りかよ。笑わせるぜ」ヤクザのもう一人が腕組をして六実たちの前で高笑いを始めた。

「雑魚が。そういう態度が一番ムカつくんだよ!」男がもう一度腕を振り上げた瞬間、俺の脳裏に閃光のように様々な映像が焼きついた。走馬灯だと思っていたその景色は俺が訪れたことの無いタージ・マハルを映していた。

 他にも、象や孔雀にマンゴー畑。なんだよコレ。知らない誰かの記憶が脳味噌に流れ込んで意識が犯される感覚。「うぉぉぉおおおおぉぉ!!!」体から皮膚が張り裂けそうな激痛で叫び声を上げていた。

「なんだ!?」「一体どうなってる!?」

 真っ白な光りで包まれた俺から手を離したヤクザともうひとりが俺の姿を見ながらたじろいでいる。白煙が止むと俺は胸の前で両手をクラップ。そのまま左手を180℃下に向けるとゆっくりと下にスライド。その軌道からまばゆい光が零れ落ちた。

「我が名はインドマン!悠久の文明を持って悪を制す!乾いた心に熱きインドの火を灯せ!」


「インドマン…って、なに!?」

 冷え切った場の空気を裂くように六実のツッコミが薄暗い倉庫に響いていった。