ステージセレクトさせて荒野に戦場を移した俺たちアクターは敵であるミル・トリコの燃えさかる剣による初撃をかいくぐると俺と同じくこの場に来たマスク・ザ・アレグロと背中合わせに敵の姿を確認する。

 剣を鞘にしまって俺たちを睨みつけるミル・トリコの後ろにボイラースーツを着た身軽そうな男、その隣に白銀の甲冑のようなフォームを着た男。そしてその後ろに真っ黒な闇が蠢いているのが見えた。

「敵は4人。あいつら全員アルスクの連中だぜ」俺の前に来たイル・スクリーモが愉快そうにケシャケシャ笑いながらホルダーからバタフライナイフを取り出した。俺は構えを変えて拘束されている安倍さんに声を掛けた。

「正義の実況者、アベピーよ!このインドマンが救出に来た!この卑怯な実況者連中に制裁をくわえてやる!」「あ、ありが…もがっ!」嬉しそうに俺たちを振り向いた安倍さんの胸倉を掴んでミル・トリコがマスク越しに忌々しく息を吐いた。

「こいつ、拉致られてる時に発信しやがったな。舐めたことしてくれるじゃねーかよぉアベピーよぉ!」「落ち着けミル・トリコ!」ヤツの後ろに居た戦士が手甲がはめられた腕を伸ばして暴走を制した。「くそがっ!」トリコが力強くその手を振り解くと無抵抗の安倍さんが岩肌に腰を強く打ち付けた。

 ボイラースーツの男がマスク代わりのバイザーを指で押し上げて高い声で言う。「安倍さんはおれ達の大事な人質だ。乱戦の間に連れ戻されたら面倒だしさ~」バイザーが後ろを向くとその奥の闇が実体化し、そいつが真っ黒な腕を伸ばすとマスク・ザ・アレグロとイル・スクリーモの頭上にその黒にリンクした渦が生まれて蠢いた。

「これは、一体!?」驚くふたりを眺めてミル・トリコが腰に手を置いて俯瞰で仲間達に訊ねている。「あのインド野郎は俺にやらせろ。いくらオマエラでもあのふたりはやれんだろ」

 鼻で笑われるようにあしらわれた連中がそれぞれに武器を構えてその首謀者に声を返した。「さすがにあんなイロモノに敗れるほど弱くはない。みくびるなよ」「まかしとき~」甲冑の男とバイザー男が装備を輝かせるとその身体を深淵の闇が包み込んだ。

「うわっどうなってんだよ!」そいつらと同じようにマスク・ザ・アレグロとイル・スクリーモの身体もその闇に吸い込まれていく。そして一息をつく間もなく俺とミル・トリコを残して他のアクターは別の空間に消えていった。俺はグローブを握り締めてトリコに向かって叫ぶ。

「こちらの戦力を分散させてあいつらは別の場所で戦わせる気だな!3対2は卑怯だぞ!」「…ひとさらいしておいて言うセリフじゃねぇが、卑怯じゃねぇ。あいつらのひとりは非戦闘員だ」ミル・トリコの赤いペストマスクの間から覗く瞳が自信たっぷりという感じに俺を眺め下ろしている。

「俺たちの計画を見破ったご褒美だぁ~。一つだけ情報を提供してやろう」ミル・トリコが指を立てて俺のいるほうにゆっくりと近づいてくる。「安倍さん、こっちへ」俺は狼狽して少し離れた場所にいた安倍さんを手招きして呼び寄せる。

 以前闘ったとき同様の強烈なプレッシャー。剣の間合いに入るとミル・トリコは俺を見て軽快な語り口で話し始めた。

「俺の仲間のひとり、さっき暗闇を出してお前の連れを吸い込んだあいつ。どういうトリックか知りたいかぁ~。知りたいよなぁ~……あいつのアクターネームはネブラ・イスカ。で、あいつが操れる能力は“空熱”!熱によって時空を歪ませた瞬間に産まれる隙間を縫って物体を動かせる、いわゆる瞬間移動の能力を持っている。普段、戦闘中問わず自分が知りうる位置座標へ一瞬でテレポートできるらしいんだぁ。今回そいつを攫ったのもその超便利な能力を使って実行した」

「くそっ足立の方の住所もバレてたのか!」「ちょっと情報漏えい多すぎなんじゃねぇのか~大物実況者さんよぉ~」

 トリコが噴き出したその瞬間、フードを被った男が俺の前を横切って安倍さんの身体を抱え、ひと飛びしてその場から離脱した。「あっ、おい!待てよ!」慌ててミル・トリコがその男を追いかけようとする。俺はその背中に思い切り拳を打ち込んでやった。

「ゲーム実況者、アベピーは俺の方で保護する。ここはキミに任せる」フードの男はそういうと俺に親指を立てて岩の陰に姿をくらませた。揺れながら響く安倍さんの声が遠ざかる。

「どこの誰だか知らないがみんなありがとう!が、頑張ってくれ!」その言葉に俺は心の中でラジャラジャマハラジャ(了解の意)と答える。砂利の上からミル・トリコがゆっくりと時間を掛け、殺気を辺りに撒き散らしながら身体を起こして俺に言った。

「人質を取り戻されたぁ。テメェらのせいで俺様の計画はやり直しになっちまったじゃねぇかぁ~。そもそもなんで大物実況者の俺がこんなジャリ共と一緒にカード集めしなくちゃなんねーんだよ意味わかんねぇ」

 抑揚のない早口で呟くとミル・トリコは腰の鞘から洋剣を引き抜いてその切っ先を俺に向けた。怒気を具現化したような炎がそこら中に巻き散らかされて岩の表面をどろどろに溶かしていく。

「一度のバトルで手に入れられるカードはひとりにつき一枚だけだからなぁ」刀身に熱を宿らせるとミル・トリコが剣を構えなおしてマスクの奥の瞳を血走せた。その表情をみて俺は腰を落として構えを取る。

「リスの放送であったロボアクターを倒したの、オマエなんだろ?あいつみたいにオマエを続けざまにリンチしてカードゼロに追い込んでやるよぉ!んで人生終了だ、この野郎!」「そうはいくか!」

 振り下ろされた刀身から飛ばされた炎の刃を側転してかわすと乱れた着地の瞬間を狙われて思い切り顎を蹴り上げられる。アクター状態であるため痛みはほとんどないが戦闘の形勢は悪い。俺が飛びのいて距離を取るとミル・トリコが挑発するようなしぐさを俺に向けた。

「剣を使うモードがあるんだろ?構えろよ」なるほど。こちらの能力は既に偵察済みか。「なら使わせてもらう!魔人モード:ムルガン!」俺が変身している間、ミル・トリコは気だるい語り口でその光を眺めていた。

「アクターバトルが始まって数ヶ月。どいつもこいつも搦め手ばっかでよぉ~まったく弱者との戦闘は爽快感無くて嫌んなるぜ。オマエもこういうガチンコバトルを望んでたんだろ?」俺が光から解き放たれて赤いフォームに変わると銀色に戻った剣を差し向けてミル・トリコは俺に宣言した。

「安心しろよ。俺は能力を使わない。この剣だけでオマエを葬ってやる」どこからか湧き上がる高揚感。「その勝負、受けて立つ!」同じ能力を持つアクター同士による文字通りの真剣勝負。愛刀シャムシールを構えるとその場を舞って相手の一太刀を受け流した。