真剣による勝負が始まり、対面するミル・トリコによる袈裟斬りを俺は構えた剣で受け止める。鍔迫り合いになると単純な力比べ。俺よりタッパのあるトリコが俺を上から圧しながらマスクの口から唾を噴き出して鼻で笑った。

「この状況で何、楽しそうな顔してんだぁ、オラぁ!」力を込めるために息を吸い込む瞬間を狙って俺はヤツの腹に膝蹴りを入れる。「油断したか?剣の構えが大きすぎる!」剣がその刀身に火花をあげて分かれると俺たちの間にまた距離が生まれる。ミル・トリコが憎々しげに舌打ちを飛ばした後、マスクを抑えて不敵に笑い出した。

「いやぁ、俺も楽しいよぉ!例えるならば実況関係なしに新作ゲームをプレイしてる感覚に近いかな。この俺に真正面からぶつかってきたアクターはオマエが始めてだぁ。インドマン、オマエを俺のライバルに認定してやるよぉ!」

 笑いを噛み殺すとミル・トリコは再び俺に向かって剣を突き出してきた。おかしい、相手は競合する実況者を誘拐した凶悪犯。なのに何故俺はこんなにも楽しくアイツと闘っているんだ!切っ先を横薙ぎで吹き払うとミル・トリコのがら空きになったボディが目に飛び込んだ。

 思わぬ絶好機。致命的なダメージを覚悟して相手の目が細くなる。いや、違う。俺は剣を構えなおしてその場から後退する。

「…なんのつもりだぁ?舐めプしてんじゃねーぞこらぁ!」怒声を飛ばすミル・トリコをみて俺は整えた言葉を返してやる。「お前が申し出たこの勝負。確かにあそこでパンチを繰り出せば私の勝ちだったかも知れない。しかし決着がそれではキミが納得できないだろう?」

 俺の提案を聞き終えると「は、はははっ」と空ら笑いを飛ばしながらミル・トリコは顔の前に構えた剣を俺に突き立てるように血走った目で突進を始めた。

「たまたまいい才能カード引いただけで調子乗ってんじゃねーぞ!」なりふり構わない一撃に備えて猫足立ちで相手の初撃を予測する。突き出させた剣先をかわすとすれ違い様にトリコが叫ぶ。

「人生はアイテムゲーじゃねぇ!それを証明するために俺はゲーム実況やってんだ!」そのまま身体を反らせてなぎ払った一撃もかわすと俺は距離を詰めて剣を正面から振り下ろした。楽しかった勝負もこれで決まりだ。

「ヒンズー剣舞踊、其の壱の剣、ニル斬…!」「かかったなぁ!ボケがよぉぉぉぉおお!!」自らゼロ距離まで飛び込んだミル・トリコが俺の剣が下りるより先に伸ばした手から紅蓮の炎を吹き飛ばした。マスク越しの景色が真っ黒な炎熱に包まれて視界を奪っていく。

「ぐっ!」思わずのけぞった身体に容赦のない袈裟斬りがそそがれる。「平和ボケしてんじゃねぇぞこのクソインド野郎がよぉぉおおお!!」蓄積されたダメージによりムルガンの変身が解けてインドマンに戻った俺に対してトリコが追撃の一太刀を浴びせてきた。

「このオレ様があんな口約束なんか呑むかよぉ!どんな手を使ってでも勝ったほうが正義なんだよぉぉおおお!!」がなり声がびりびりと響いて体から力が抜けていく。相手が申し出た真剣勝負を裏切られた失望。対戦ゲームで勝利直前で相手に通信ケーブルを切られたような、突拍子もなく金槌で頭を殴られた、そんな衝撃。

 ミル・トリコ。おまえは初めからこれが目的で俺にこの勝負を申し込んだのか?だとしたらおまえは…砂利の上に転がった俺の利き腕を真っ赤な刃が貫いていく。

「ぐぁぁああ!!」「あれぇ~?また俺なにかしちゃいましたかぁ~?」一転攻勢、勝利を確信したミル・トリコが白々しく空いた両手を広げると宙を舞うスピーカーに羽がついたような小型ビット機を眺めて話し始めた…アレが俺たちのアクターバトルを録画していたのか。饒舌に語るアイツの勝ち名乗りに耳を傾けてみる。

「ハイみなさん、キタ川コレ児ですよぉ~。今回も俺の勝利ぃ~。相手に見せ場作ってからの逆転とかめっちゃカッコいいっしょ~?やっぱりねぇ、我々はアクターな訳ですよ。正面から殴りあったりドンパチやったら原始的な喧嘩となんら変わらない。自分に与えられた能力を活かして勝ってこそのアクターです。ハイ、皆さんここテストに出るから復唱しましょうねぇ!」

 いやらしい視線をこっちに向けるとヤツは俺の姿を見下ろして鼻を鳴らした。「この、卑怯者…!」「あれぇ~負け犬が何か言ってるなぁ~聞こえねーからもっとはっきり喋れよ陰キャ野郎」

 手の平に突き立てた剣を引き抜くとミル・トリコは俺の胸倉を左手で掴みあげて右手で持った剣の切っ先を俺の喉元に向けた。「勝負の見せ場的にここで一発、紅蓮腕ぐれんかいないっとくかぁ?なんならフレイムでもファイヤーでも吹いて抵抗してみろよ。この似非インド野郎がよぉぉ!!」

 ペストマスクの奥でニヤケた瞳が不気味に嗤う。「おまえ、みたいなクズにやられてたまるか…!」ぶらりと揺れた手にガシャットの入ったホルダーが触れる。『人を斬りたい…』「えっ、なんだって?」かすかに聞こえた不穏な一言。気がつくとその手には新たなガシャットが生まれていた。

「これで終わりだぁ!華々しく散りやがれぇぇ!!!」剣先が目の前に飛び込んでくるその瞬間、俺の体が青い光に包まれてその場から飛び上がる。「何?どうなってやがるっ!?」空中で機械音によるアナウンスが頭の中をすり抜けていく。


『魔人モード:カーリー』青色に禍々しいタトゥーが彫られたフォームを全身を纏い、わき腹から左右に突き出た両腕にはそれぞれ曲剣が握られている。「なんだぁ、その姿。まるで阿修羅じゃねぇか」ミル・トリコの言葉を受けて俺は剣を握る力を強めてみる。

 六本の腕全てに握られた剣を左右天下天下それぞれに向けた天衣無縫の構え。首から下げたどくろのネックレスが揺れると俺は無意識にその剣を相手目がけて勢いよく振るっていた。目にも留まらぬ瞬間風速からつむじ風が産まれ、触れた岩を根元から切り裂いて行く。

『ヒンズー剣舞踊、其の弐の剣、タツ・マル…!』6本の衝撃刃が一つに交わって竜巻に変化を遂げ、ミル・トリコに進路を向けていく。「ほぅ、これはただ事じゃねぇなぁ。オレ様も本気で行かせてもらうぜぇ!『レーヴァテイン』!炎風波でコレを送り返してやる!」

 ミル・トリコが竜巻に向かって炎の剣から放たれた衝撃刃をぶつける。しかし、六本腕から生み出された竜巻の勢いは和らぐ事無くそのペストマスクを飲み込んだ。「どうだ!?」カーウォッシュに流された車のようにミル・トリコの体が宙に浮かび、その全身を剣が産み出した衝撃刃があらゆる方向から切り裂いてゆく。

 文字に出来ない絶叫が響き渡り、つむじ風がやむと俺は地に落ちた相手の姿を見て言葉を無くした。全身を纏っていたトリコロールのフォームは散り塵に破れ、両腕は切り落とされて割れたマスクの間から血塗れの素顔を覗かせていた。

「ロキ!どうしたんだその姿!」相手の仲間であるネブラ・イスカの闇がその後ろに現れると塊になった血を吐きながらミル・トリコは崩れ落ちたペストマスク越しに俺に言った。

「…これで一勝一敗だぁ。次に会うときは絶対負けねぇ…ちくしょぉぉぉくそがよぉぉおおお!!」「ロキ、もう無理だ!ここは一旦退こう!」ネブラ・イスカが創り出した暗闇の渦がふたりを飲み込むと俺は変身を解除してその場で膝を付いた。

――新たに生まれた制御不能の絶対的なチカラ。ミル・トリコを筆頭とした超最強学園の野望を打ち破った達成感と戦いの疲労で俺はその場で意識を深い闇に奪われていた。