待ち合わせ場所に指定された駅前の喫茶店。先に着いた俺が席に座ってコーヒーを頼むと携帯からラインの通知を知らせる着信音が響く。

 折りたたみのガラケーを開くと発信主は妹の六実のようで、『修学旅行の行き先が北のカリアゲ野郎のせいで直前に変更になった。マジ最悪』と文の後にブチ切れて暴れるクマのスタンプが押されていた。

 俺が笑いを堪えていると母の清美がすかさず『あらまあ。どこに変更になったの?』と尋ねている。すると六実が短く『インド』と打ち込んだので俺はその場で噴出してしまった。

「朝から楽しそうにしてるねー。英造くーん。」間抜けた声に顔を上げると以前同様に不快な音を鳴らす缶バッチを取り付けたリュックを背負った熊倉が俺の前に姿を現した。

「な、なんでもねぇよ!」俺は携帯を閉じるとテーブルの席に尻を滑らせる元クラスメイトに訊いた。「メールで送ってきた話は本当なんだろうな?アイドル八木沢理香子の誘拐犯の居場所が分かったって」

 小声の俺に対して熊倉は大きな声で店員にマンゴージュースを頼みながら正面の俺に向き直る。

「うんそうそう!僕達のアイドル、『暗闇坂42』のセンター八木沢理香子を誘拐して握手会を中止にさせて世の中を混乱に貶めている犯人が分かったんだ!これは凄いことだと思うよ!」

「馬鹿!声がデケーよ!」席を立って熊倉の口を閉じると周りの客達が『なんだ。頭がアレな子供か』とヤツの風貌を見て各々の空間に戻っていった。席に着いて俺は話を戻す。

「犯人は握手会にいたあのラッパーだって分かってただろ。問題はアイツが何処に『やぎこ』を軟禁しているかだ」

「そーだねー。前から少し間空いちゃったから前回までのあらすじを振り返ろうかと思って」「メタ発言はよせ」ふざけて笑う熊倉をたしなめて俺は椅子の背もたれに身体を預けた。


――誘拐犯と思われるラッパーが活動していた『カツアゲ・ストリート』にも勇気を持って捜索をかけてみたがヤツの姿はどこにも無かった。

 近くに居た穏かそうなラッパーのひとりにCDの件を絡めてヤツの事を聞くと握手会場に居た男は『MCノップス』という名でアンダーグラウンドで活動するラッパーで詳しい素性は誰も知らないらしかった。


「MCノップス!」俺の捜査結果を聞いて熊倉が飲み込んだジュースを耳から噴き出す勢いで話に食いついた。「知ってるのか?」俺が尋ねると熊倉はスマホのアプリを起動させて動画を再生させて見せた。

「MCノップス。ニマニマ動画で活動していた知る人ぞ知るカリスマラッパーだよ。最近は動画上げてなかったけどまだラップは続けているんだねー。」

「ニマラッパー。動画配信者……決まりだな。で、ヤツの居場所が分かったのか?」動画を止めた熊倉に目配せするとヤツはもじもじと気味悪く身体をくねらせた。

「判ったには分かったんだけど…英造くん、怒らない?」「…内容による」「実は英造くんの妹の六実ちゃんの画像を使って出会い系サイトでネカマをやってみた。」「この野郎!」

 俺が飛び掛って襟首を掴みと「タンマ、タンマ!これも捜査の為の犠牲だよ!このお陰で犯人の居場所が掴めたんだ!」と熊倉が命乞い。舌打ちをして俺はヨレヨレの熊倉の襟首を離す。眼鏡をすちゃりと直してネカマ野郎は話を続ける。

「正直全然期待はしてなかったんだけど始めて20分くらいで会場で見かけたキャップ姿の男のアイコンから『良かったら会いませんか?』とレスが着た。
カマをかけるつもりで『住んでる所の画像送ってください』と返信したらこの画像が送られてきた」

 熊倉のスマホを覗き込むとそれは窓の外から撮られた写真で三階建てと思われる高さから向かいにカトリック系の幼稚園があり、風景には地元の大型パチンコ店の看板と特徴的な形の電波塔の姿が見えた。

「でかした!これだけあれば充分だ!変身!インドマン!」

 俺は席に着いたままインドマンに変身してアクター特有の能力であるステージセレクトの能力を始動させた。「熊倉、お前は変身しないのか?」俺が尋ねると熊倉は答えづらそうに俺を上目で見た。

「実はカードゼロになった日に黒服の男達が家に来て強盗さながら変身アイテムを全部没収して行っちゃったんだ。親父が警察を呼んだけど全然取り合ってもらえなくて。怖かったよ。」

「そうか、なら俺一人で行く」能力始動から10分足らず。近くでアクター能力を解放させたプレイヤーが居ると頭の中に情報が流れる。「がんばってねインドマン。」消え際に親指を立てると混み合った喫茶店のテーブルから俺の姿が一瞬の光に包まれてその場から居なくなった。