お互いアクターに変身して向かい合う俺達。「場所を替えよう。ここは人目に付く」俺が提案するとオクタアンクは海岸のステージをセレクトした。

 身体が浮かび上がり一瞬で海岸沿いの浜辺にふたりだけになると俺は構えを取って洒落た衣装を羽織った敵であるオクタアンクに向き直る。ゴテゴテしたサングラスのフレームを摘まみながらヤツは俺に向かって余裕のある声を伸ばす。

「アクターズサイトで最強論説が持ち上がってるインドマンを倒したらボクの株もあがるってもんさ。接近戦にめっぽう強いんだろ?先にこっちから行かせてもらうよ!」

 そう宣言するとオクタアンクは腰のホルスターからデコレーションされたスプレーガンの形をした武器を取り出した。その場でクルっと一回転してポーズをとるとそれを俺に向かって一斉噴射。

「くらいなよ!特性☆綺羅星とくせい きらぼし!」星型の銃弾が手裏剣のように回転しながら俺目がけて飛び込んでくる。こいつ、どこまでも自分をアイドル化してやがる。「なんだ、こんなもの!」チャクラベルトを廻し時間の流れを緩やかにすると俺はそれを両腕で弾き落とそうと腕を伸ばす。

 しかしそれが悪手だった。手に当たった途端、その銃弾は鉛のようにグローブに張り付いて両腕の重心を奪っていく。「これは、重油…?」「ほらほら、次の発射行くよ!」俺に考える時間を与えることなくオクタアンクの銃から更なる追い討ちが全身を襲う。

「く、しまった!」身体が重くなった事によりそれをかわし損ねると銃弾が重さとして加算され、思わずその場に膝を付く。「連射、連射ァ!!」続けざまに打ち込まれた銃弾により目の前の視界が奪われる。砂場に身体が埋まり始めると頭の上で軽快な語り口が聞こえ始めた。

「なーんだ、みんなが言ってたより全然大したことないじゃんインドマン。それともボクが強すぎるのかな?」笑い声が喉元に伸びたダガーの引き音を掻き消す。身体が元居た歩道脇に移され、頭の中であのナレーションが響いた。

「ディフェンサー側の決定打により勝者、オクタアンク。このバトルにより、新たに『帝王』のカードを手に入れました」

「く、そ」オフ会主催者の勝利を祝って黄色い声援を上げる取り巻きたち。舞い降りたカードを気取ったしぐさで指で摘み上げるとオクタアンクことリュータローはシャフ度で俺を見下すように微笑んだ。

「これでインドマンからカードゲット。しかもこれ、あのミル・トリコから奪い返したカードでしょ?ハハ、これで事実上ボクが現在の最強アクターってことになるね」

 カードをぴらぴら揺らす相手を見て悔しさを噛み殺して俺は拳を握り締めた。「きゃー、リュータロー」「ちょー、まじでかっこいー!六実、きゅんきゅんしてきちゃったー!」

 妹の六実が飛び跳ねるようにしてリュータローの肩を手で叩いている。畜生、洗脳状態とは言え実妹が他の男にデレている姿を見るのは兄として気持ちが萎えそうだ。

「そうだ、本来の目的を思い出した!」わざとらしく手を叩くとリュータローはそのお洒落眼鏡からいやらしい目線を女子たちに向けた。

「これでオフ会の日程はラストだったよね?ひとり30分ずつ、あのホテルで相手してあげるよ。ひい、ふぅみぃ…参加者は七人か。希望あればふたり同時プレイも受け付けるよ。もちろん料金はそっち持ちで!」

「ちょ、ちょっと待った!」慌てて立ち去ろうとする一行を呼び止める。「なぁに?負け犬クン?」王様のように担ぎ上げれたリュータローが乞食でもみるような冷たい笑みでこっちを振り返る。「カードチェック!」俺は手持ちのカードを宙に浮かべると呼吸を整えてリュータローに啖呵を切った。

「再戦だ!妹の六実をお前の毒牙にかけるワケにはいかない!」「ちょっとなにー?」「熱い兄妹愛ってやつー?」取り巻きをかき分けてゆっくりとリュータローがこっちに歩いてくる。舌なめずりをするとヤツは俺に言った。

「そう来ると思ってた。あんたのカードをゼロにして人生終了させて妹はおいしく頂くことにするよ。ちょうどカード集めてたトコだったしさ」

 リュータローが顔の前にグラスを翳すと再び景色が海岸沿いの浜辺に移り変わった。「変身っ!」お互いに決めポーズを取り身体がそれぞれにアクターフォームに成り代わっていく。

「今度はボクがアタッカーだ。まぁ結果は同じだと思うけど」再びオクタアンクがスプレーガンを手に構えると俺は腰からガシャットを取り出してそれをベルトに差し込んだ。


『魔人モード:パールヴァーティー』久しぶりに使う動物を自在に操れる変身タイプ。白黒のゼブラ柄のフォームに身を包み直すと俺はその場で指笛を吹いた。

「使い魔よ!相手の武器を奪え!」オクタアンクが銃を構えるとその背後から目にも留まらぬ速さでガルーダを思わせる大鷲がそのクチバシで銃身を掴み上げそのまま空へ羽ばたいていく。

「でかした!これで相手の攻撃を封じた!」「ちょ、そんなのありっ!?」不意の一撃にうろたえるオクタアンク。その様子を見て一気に勝負を決めるべく俺は両足を揃えて飛び上がり全力のヒーローキックを浴びせるはずだった……!


「く、なんだこれは…!」突然空中で身体が掴み上げられその物体に拳を叩きつける。胴体を巻き上げるように掴んでいたそれから振り上げた手を持ち上げるとグローブにねっとりとした粘液が糸を引いた。

「これは…触手か?ぐっ…」身体を締め上げる強さが増していきバーチャルの中とは言え呼吸が苦しくなる。「ふー、意表をついた攻撃してくるじゃないの」大きく息を吐き出すとオクタアンクは耳に掛けていたサングラスを外して俺を見上げた。その瞳孔にははっきりと大きな十字が刻まれていた。

「もうとっくにご存知なんだろ?ボクの本当の能力はタコ!オクタアンクの名の通り八本の腕、もとい八本足で相手の背後から動きを止めて確実に勝負を決めるのが本来の戦い方さ!」

 銃とは反対側のホルスターからダガーを取り出してその峰を肩でリズムを取るように叩きながらゆっくりとオクタアンクが近づいてくる。

「アクターとしての能力を発現した時に自分のチカラを理解した時は絶望したよ。このボクがこんなダッサイ外れ能力で戦わなきゃならないなんてさ!…でも考えを変えればこのチカラは無敵なんだ」

 ヤツが言い終わると砂浜から他の七本の足が生命力をその身に滾らせた勢いで伸び上がると先端をぬらぬらと揺らしながらこっちへ近づいてくる。「出来れば使いたくなかった能力なんだけど」コミックにありがちな言葉を吐き捨てるとオクタアンクは触手で滅多打ちにした俺の喉元をダガーでさっと引き裂いた。


「アタッカー側の決定打により勝者、オクタアンク。このバトルにより、新たに『魔術師』のカードを手に入れました」

「…なんてこった!」続けざまに敗戦を喫し、戻された歩道脇で思わず膝を折る。「いやぁー!リュータローさいこー!」「ロワイヤルで優勝して嫁にしてー!」「ハハ、困ったな。どの子から相手してあげようかな」

 悔しさで俺はその場で拳の腹をアスファルトに打ち付ける。インドマンとして初の連敗。だが、このままでは妹の六実をあのクズ野郎にキズモノにされてしまう……立ち上がらなければ。

「おい、待てよそこのアホガキ」

 俺が身体を持ち上げるとリュータロー達の前に白と黒のツートンカラーヘアの男が立ちはだかった。「お、おい!なにやってんだ!?」俺が呼び止めるがその男は変身アイテムである肩のベルトに指を伸ばしながら、こう宣言した。

「そのカードは元々オレが持っていたモンだ。このままお前にやすやすと渡す訳にはいかねぇ」「ほぅ」ニューチャレンジャーを前にして再びシャフ度を取り始める歌い手リュータロー。

「カード集めてんだろ?同じ相手で雑魚狩りしてても気が滅入んだろ。俺が相手してやるよ」やめろ、白木屋。声が震えている。そのカードを失ってしまったらおまえは……駆け寄る俺の前にリュータローの腕が伸びる。俺の思いを遮断するようにリュータローは白木屋に言った。

「いいよ。このコ達にもっといいトコロ魅せたいしさ。それに見てみたかったんだ」そこで言い終わるとリュータローは悪意がたっぷりと篭められた十字の瞳で白木屋を見下ろした。

「この手で狩ってみたかった!最弱のアクターをさ!」三度、風景が浜辺に切り替わる。「インドマン、アンタは手を出すな」おなじみの異形の姿に成り代わったイル・スクリーモが振り返らずに俺を制する。

「アンタの戦いを二回見てあいつの手の内は知れてる。それにさ」洗脳され、望まない情事を求められる婦女を救わんとするヒーローとしての誇り。それが白木屋の心にも目覚めたのかも知れない。しかしその希望は次の句によってかき消された。

「世間知らずにガキが女囲ってイキってるの見てるとムカつくんだ」「さぁてと、三回戦開始ィ!何秒持つかな!?」

 互いに短剣を握り締めるふたりを見て俺は息を呑んでその成り行きを見守る。捻じ曲がり野郎共による性悪決戦。静かなさざなみが流れる砂浜でイル・スクリーモVSオクタアンクの一戦が始まった。