Neetel Inside ニートノベル
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 雪原のバトルフィールドで火花を散らすふたりのアクター同士による闘い。一戦目は新たなチカラを手に入れたインドマンが制し、敗北して変身が解かれたガンソが乱れた髪をかきあげる事無くその場から素早く体を起こした。

「まだ星をひとつ落としただけだ。ここから3つ勝って巻き返してやるよ」

 ペンダントを握り煙が辺りを包み込むと再び俺の前に姿を現したタタン・タタ。「さっきはシンプルに行き過ぎた。今度は慎重に仕留めてやる」俺に対しての攻撃を予告し、発生させた煙に身を預けるタタに対抗すべく俺は体の前で剣を構える。

「無駄だ!どこから斬りかかっても返り撃ちにしてくれる!」

 体の周りを囲う煙に意識を集中させて飛び込んできた刃に握った剣を合わせる。「もらった!」弾いたと思ったその刃は実体を持たず、別の方向から現れた刃が俺の体に向けられる。

「くそっ、煙で作った分身か!」反対側に握った刀でその刃を跳ね返す。相手の最大の武器は脇差しによる『居合い抜き』。このように周りから注意を散らされて深い踏み込みで相手の一撃でもくらったら終わりだ。

「梵天よ、俺にチカ…くっ」

 チャクラベルトに指を置こうとしたその時、体に電流のような強い痛みが湧き上がる…あと少しなんだ、魔人たちよ。俺にチカラを授けてくれ。すると頭の奥に聞き覚えのある声が鈍痛と共に意識に響いた。

「インドの魂をその身に宿した若者よ。オマエでは我らを支配する事など到底出来ない。その程度の器ではお嬢の役者不足ダヨ」

 精神世界でのやり取りにて俺に対しあまり協力的でなかったパールヴァーティーの見下すような態度。その裏で俺の姿をせせら笑うようなケシャケシャとした女の声。


――分かってる。お前達も好きで俺にチカラを貸してくれている訳じゃない。俺はお前達にとって永い生涯の中で偶然乗り合わせた呉越同舟の器。でもこうなった以上、俺はお前達のチカラを存分に使いこなしてやる!

 お前らが俺にチカラを貸すしかない、なんて消去法じゃダメなんだ!俺のチカラをお前らひとりひとりに認めさせて『お前に一生憑いて行く』って言わせてやる!

「どうした!それで終わりか?」

 何度目かの突きで体勢を崩した俺に対してタタが煙を解除し剣の間合いに入るようにして正面に立ち、脇差しに手を伸ばした…このタイミングしかない。わざと隙を見せて相手が柄に指を掛けたその瞬間に俺は背中から剣を振り下ろした。

 前のめりで踏み込んだその一撃は俺の体に差し込まれた刃が内部に到達する前に相手の頭部を破壊した。4種の魔人によるチカラを集結させた常識を超越した加速する剣撃。激しい打ち合いになりながら辛くも俺はこの闘いに勝ち残った。

「勝者、インドマン。このバトルにより、『塔』のカードを手に入れました。そしてこの瞬間にアクターロワイヤルへの出場権を手に入れました」

 ナレーションが止むと俺の周りを13枚のカードが囲み出しそれらがひとつの光となってどこかへ飛び去っていった……春にチャクラベルトを手に入れてインドマンになってからようやく手に入れた本戦への出場権。

 俺は昂る気持ちを押し殺して変身を解除し、木の陰で身を屈める師に手を伸ばした。

「ガンソさん、あんた芝居が下手だな。インドマンを倒して最強のチカラを手に入れるなんて」俺の掌を見上げてここまで俺を引き上げた修行の師匠が伸びきった髪の下で目を輝かせ、大きく口を開いて笑う。

「そうかい?ヒーローモノの特撮やアメリカ大衆映画を見て勉強したつもりだったんだけどな」

 ガンソさんは軽口のようにそんな事を言って体を起こしながら俺の手を握り返す。「ともかく、本戦出場おめでとう」「あんたは出場しないのか?あれだけのチカラを持っていながら」訊ねると近くに転がっていた杖を拾い上げてガンソさんは言う。

「他にやる仕事があるんでね。それに今から山の麓に下りて必死こいてカード集めるのも恥ずかしいだろ?」
「この見栄っ張り。体裁ばっか取り繕ってからに…」

 俺が笑うとガンソさんはその時初めて俺と目を合わせて心からの笑みを見せた。

「ああ、俺の願いはもう既に叶っちゃてるから」「プロの歌手になるという夢?」「半分正解。でももう半分は教えてあげない」いたずらな表情で会話を切り上げるとガンソさんは俺が来た轍を通るように一歩ずつログハウスへと引き上げていく。

「カードを全部集めたんだ。会場まで早く行きなよ。行き先はナレーションが教えてくれる」雪道を踏みしめるガンソさんの背中に俺は声を振り絞る。

「ガンソさん、俺の修行に二ヶ月間付き合ってくれてありがとうございました!」「うっさい、雪崩で道が崩れるわ」師匠の笑い声を背に手荷物を握る。「あ、それと」

 以前から感じていた、ガンソさんの姿にどこか懐かしさを覚えて俺は振り返る。

「ここに来るまで、俺たちどこかで遇った事、ありました?」

 視線の先にガンソさんの姿は無かった。カードをコンプリートした感慨に浸る暇も無く、次の闘いが始まる。俺はまだ誰も触れていないまっさらなその雪の処女地へ挑戦者としての次の一歩を踏み出した。

       

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