――アクターズロワイヤル開始数分前、会場の正面ゲート入り口にアナウンスにより集められた俺たちアクター七人。先に来た俺がベルトのバックルに指を落としてこれまでの回想していると靴音がひとつ、こつこつとこっちへと近づいてくる。

「よー、始めましてだなー俺の名は知ってくれてるかー?」

 見覚えのある身なりの良い男が馴れ馴れしく俺の肩に手をまわしてくる。俺はそいつを振り返る事無くその腕を振り解く。

「そんな邪険にすんなよなー。俺は他の三人とは違う。カードもほとんどひとりで集めきったし、アベビー誘拐だって乗り気じゃなかったんだ」
「その辺にしておけ。零」

 俺に絡む白布 零しらふれいに対し短く声を切った『ナンバーナイン』のアクター能力者、古流根 晋三こるねしんぞう。こうして連中とアクターの姿ではなく生身の顔を合わせた状態で話すのは初めてかもしれない。

 後からやって来た他のメンバーを指し示すようにしてコルネは俺に言った。

「雪山での闘いの時は貴様に不覚を取ったがこの昆 帝王こんておが最後に俺たち四人のカードを集めきってくれた。想定時期より早くカードをコンプ出来たお陰で本戦への戦略を練る時間が出来た」

 テオという背の高いサングラスの男は俺を見下ろすと意にしない様に前に出て会場の光をそのグラス一身に受けていた。「オマエの仲間にも言っておけ。このステージ、優勝するのはこの超最強学園だってなぁー」

 聞き覚えのある暴力性を孕んだ甲高い声が俺の横に並び、肩を掴みあげて宮島 路樹みやじまろきが俺を射抜くような眼差しで睨みつけた。

「おめーがインドマンかぁ。散々俺たちの計画を邪魔してくれやがって。でもまぁ、それもこれで終わりだぁー。大衆の面前でオマエにドン勝ちして俺たちがチカラで世界を牛耳ってやる」

 ロキの妄言を鼻で笑うと俺は握られていたその手を解いて向き直って言ってやった。

「アクターのチカラを使って大衆を支配しようと目論んでいるんだろ?このインドマンがいる限り、この世に悪は栄えない!」
「おいおいおいおい!この場に及んで正義のヒーローのつもりかぁ?こいつ、どんだけ世の中見えてねーんだよ!」

 ロキは髪をかき乱しながら俺をあざけ笑う。血走った目で俺を見下しながら奴は言葉を続ける。

「オマエがこれから戦う場所はなぁ、ラ・パールの連中が取り仕切る娯楽場。殺しも、法も全てあいつらの気分次第。第三者の手が介入しない一方的な閉鎖空間だぁ。そんな世界で正義なんてモンは有りはしねぇ!
行くぞオメーら!これから俺たちの圧倒的な強さをこいつらと世の中のアホ面した連中に魅せ付けてやる!」

 先陣を切ってゲートをくぐるロキに続いて前に進み出たコルネに俺は手を指し向ける。

「ひとつ、言っておくとだな、俺たちはチームでは闘わない。正々堂々と勝負しよう」

 コルネは俺をふん、と鼻で笑うとそのまま素通りをしてフレイもその後に続いた。「アイツを悪く思わないでやってくれ」不意の呼びかけに振り返るとテオがサングラス越しに真っ直ぐ俺を見つめていた。

「身勝手に思えるかも知れないがテオは俺たちの為に闘っている」
「何故、彼に手を貸す?宮島路樹はキミ達を都合の良い駒のひとつとしてしか考えていない」

「確かにそう見えるかもしれない」テオは落ち着いた声でかみ締めるように一言、一言、自分に言い聞かせるようにその想いを紡いでみせた。その声には旧友に対しての信頼と慈悲があった。

「この大会の優勝報酬、アイツが叶えたいと思っている願いは俺たちのひとつだ。そして俺たちもアイツの願いの為に闘う事を決めたんだ」

 思いもよらなかった敵チームの結託に俺は唇を噛む。「先に行くよ。出来ればそちらさんとは別の形で知り合いたかった」そういい残すと通路の先にあるライトがテオの黒ジャケットを光で包み込んでいく。背後から不愉快そうな舌打ちが聞こえ、大きな影が俺の体を包み込んでいく。

「なんだよ、この場に及んで相手に情が移ったのか?まったくとんだ甘ちゃんだぜ」

 からかうようにして長い髪を後ろで結い直しながら千我が正面を見据えて俺と目を合わせずに言う。

「日比野さんよ。俺はあれから変わったんだ。カードを13枚集めるためにクソみたいな体験もした。でもその全てが無駄じゃなかったとこの会場で証明してみせるぜ」
「ほう、妹を誘拐するような卑怯者と同じ人物とは思えないな。殊勝な事を言うようになったじゃないか」
「へ、たまたまインドマンなんていう、強ぇーカード握っただけで勝った気でいるんじゃねぇよ。俺はこの大会で賞金を得て自分のやりたい事をやる。しばらくはバイクで世界を放浪しながら考えるってのも悪くねぇのかも知れねぇ」
「なんだよ二人とも。仲良さそうじゃねーか。やっぱり俺たちも共闘戦線組むか?」

 後ろから白木屋が声を掛けてきて「いや」と俺と千我は首を振ると通路を進んでゲート正面に歩み出た。サッカーの国際試合のような熱狂と興奮が屋内式のドーム中を取り囲み、観客席から歓声が湧き上がっている。

「『蒼穹の昴』、ネブラ・イスカに続いて現れたのはー、完全無欠のカレー野郎!インドマンー!」

 耳に付く男の実況が会場の熱を更にヒートアップさせている。まるでプロレスの選手入場のテンションだ。隣に並ぶ本職者の千我を見て俺は気おされて首に手をまわす。

「…古代ペルシアの魂をその身に宿した超個性アクターはこれまで幾度と無くありえないバトルを繰り広げてきた!その最大の特徴は戦闘時のフォームチェンジ!変幻自在のバトルスタイルを今回も見せてくれるのかー!?」

 ハイテンションな競技者紹介が終わるとマイクが主催者である馬場社長の手に渡った。黒スーツのその男は大型ビジョン越しにしたたかな笑みを見せると観客席と俺たちアクターに向けて発言した。

「やあ、アクター諸君。待たせてしまったね。改めてアクターロワイヤルへようこそ。ここで本大会のルールを紹介しよう」
「な?ルールって!最後の一人になるまで闘うのがロワイヤルの決まりじゃねーのかよ!」

「基本的にはその通りだ。安心したまえ」マイクを外して白木屋の抗議に答えるようと、馬場社長は前髪の毛束を指でつまんだ後、再びマイクを口許に向けた。

「アクター同士による只の殴り合いだけでは華が無い。この会場のどこかに、ある『鍵』を仕込んでおいた。勝者はその『鍵』を手にし、最後のひとりになるまで闘い抜き、勝ち残る。それがアクターズロワイヤルのルールだ」
ドームの地形やアトラクション、己の能力や戦術を駆使し熱戦を繰り広げてくれる事を期待しているよ」

 会長が一度マイクを置くと正面のゲートが完全に開く。水を打ったように観客席が静まると俺たちは各々に変身アイテムに指を落とした。待ちに待ったアクターズロワイヤルが遂に始まる。

「準備はいいな?それでは始めるぞ!」

 再びマイクを握った会長の号令が響き、光に包まれたアクター七人が戦場と成った裏東京ドームの中央に向け駆け出していく。約一年にわたるアクターバトルの集大成。その火蓋がここに切って落とされた。