Neetel Inside ニートノベル
表紙

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「キミはアクターを知っているか!?アクターとは新時代の旗手である中堅Youtubeのみに変身を許された人とは違う、特異なる存在。
その実態は今までSNSやネット掲示板など、一部界隈で都市伝説として扱われ、これまで世に明らかにされる事は無かった……!しかし今ッ!我々の前に7人のアクターが居るッッ!!
そしてその全国から予選を勝ち抜いたアクター達が雌雄を決するべく集まった裏ディズニーランド!本家のアトラクション配置を左右反転したこの遊技場にて繰り広げられる未知のヒーロー達による夢の祭典!
本日より時代が変わる。我々の常識、そう!アクターこそがッ!新たなる時代を切り開く希望の轍だッッ!」


――アクターズ・ロワイヤル開始直後、実況席に居る見覚えのあるMCがマイク片手に実況を盛り上げている。この戦いを観にこの地下に集められた約3000人越の観衆。誰もが夢に見た人の変身したヒーロー同士の戦いをその眼にすべく、尋常では無い熱気に否応無く盛り上がる観客席。

 俺たちはその声を受けながら開門口であるワールドバザールから奥のファンタジーランドへと駆け出す――馬場会長は開戦前に『このロワイヤルのルールは最後の一人になるまで闘いを勝ち抜き、この会場のどこかに隠された鍵を見つける事が勝利の条件』だと言っていた。

 あの目立ちたがりの会長のやりそうな事だ。設備配置を見れば何処に鍵を隠していそうかなんて予測出来る。少し遅れて後を駆ける白木屋のアクター態、イル・スクリーモが首を傾けて前方にそびえるアトラクションを見上げる。

「なんだよ、みんな考える事は同じかよ」

 俺たちと同じくアクターに変身を遂げた千我、マスク・ザ・アレグロがそのプロレスマスク越しに俺たちに舌打ちを返す。「まずは鍵の奪取が先だ。連中に先を越される前に」インドマンに変身した俺を筆頭に3人が目指すのはエリア中央にそびえ立つシンデレラ城。

 本家の姫が居住としているモノとは違い、黒と藍で配色されたその建築物は支柱を囲う電飾でイルミネートされ、妖しい輝きを周囲に放っている。手前の庭に足を掛けると突然俺たちの周りを黒い闇が取り囲んだ。

「な、これは!?」
「ワープ野郎の能力だ!」

 俺の後ろでアレグロとスクリーモが広がるその闇に体を飲まれ始めている。「悪く思うなよ。これはチーム戦だ。俺の能力にてそちらの戦力を分散させてもらう」正面を向き直るとさっき聞いたサングラスの男の声――ネブラ・イスカがその能力で俺たちを包み込み、それぞれ会場の別箇所に体を運んでいった……



「で、俺さまの相手はおまえって訳か」

 ウエスタンランド――トムソーヤいかだの前で闇から解き放たれたアレグロの前に立ちはだかったのは超最強学園のひとり、古流根 晋三《こるね しんぞう》。白銀の甲冑のようなフォームに身を包んだ参加者最年長の彼はすこし離れた位置から「その通りだ」という風に自分を親指で指した後、迎撃体勢に移り変わった。

「早々にバトんのかよ。火球を放《はな》てんだったよな?」

 アレグロの問いに答える事無くコルネのアクターフォーム、『ナンバーナイン』は体の前に両手をかざし神経を集中。雪山での戦闘でインドマンを苦しめた火球を生成し、それをノーフォームで投げつけてきた。初手からの必殺技をうけ、悲鳴と興奮に沸き立つ観客席。

「馬鹿野郎。おまえの手は全てお見通しなんだよ」

 臆する事無く火球に飛び込むビガーパンツがその円球を滑り込みで回避するとウエスタンショップに飛び込んだそれが小規模な爆発を引き起こす。粉塵が舞ったその一瞬を逃さずに相手の背後に周ったアレグロが太い腕を首に絡めて意識を締め落とさんとすべく強烈なヘッドロック。これには観戦に訪れたコアな格闘技ファンが歓声を挙げる。

「終わりだ。すぐにタップしやがれ……ん?」

 抵抗なく、予想以上に早く腕に伸ばされた手甲越しの相手の指。忖度なき実戦のプロのリングであれば瞬時に青色吐息が浮かぶこの力技に『ナンバーナイン』は苦悶の表情どころか、余裕に微笑んでいるように見える。

「これで勝ったと思ったか?アーマーテイクオフ!」
「む、ぐぁ!」

 首元のスイッチを起動し、自身からアレグロの腕と体を跳ね除けるようにナンバーナインの体から装飾が弾け飛ぶとその勢いに押されアレグロはホールドを解く。「くそ、くだらねぇ小細工なんかしやがって!」相手を見失った瞬間、何かが自分の頬を強く弾いた音が響いた。

 不意の衝撃を堪え、その殴撃の先を見据えると目の前に逆立てた髪、額に鉢巻を巻き両手にグローブをはめた軽装のアクターが姿を現した。軽快なフットワークは見間違えど、前後の息遣いからして相手はどうやら甲冑を外したナンバーナインであるらしい。

「へっ、それが本当の姿って訳かい。第二ラウンドを始めようぜ!」

 拳を掌で打ちつけた打撃音をゴングに見立て、相手に駆け出すマスク・ザ・アレグロ。その姿を見てナンバーナインの鉢巻の下の目が意思を持つ生き物のように不気味に蠢いていた。


       

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