Neetel Inside ニートノベル
表紙

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 闘いの熱気を感じさせないくらい冷たく飄々とした口調でジロアスタは私の顔の前で血に飢えた光刃を照り返す。

……バカね。これで勝ったとおもってるつもり?私が突き立てたパイプは鋼鉄の樹に変化して土の中を根を生やしてアンタの背後まで育ってその死角から急所を貫くタイミングを伺っている。

「それはそうと、ラ・パールの息の掛かった開発者がそっちに居るようだな。故人と成り果ててまでアル・サティーヤに復讐しようと企んでいるようだが」
「アンタには関係ない。それにあの人は復讐なんて望んじゃいない。ただ、アクターとして正しい道を正すため…!」

 その瞬間、グラウンドの前方で大きな地響きが起こり、それによって生まれた土石流に数多くのアクターが飲み込まれた。その中にはあのライ&カメレオンの姿もあった。

「柳下さん…!そんな、嘘っ!」
「『インディゴ・ルブライト』。地表の土を性質変化させて戦うアクター能力だ。ボクも気に入っている能力のひとつだ」
「あーはっはっはっ!!見てくださいよリガノさん!コメ欄に見たことも無い桁の数が集まって来てるっす!」

 後方から男の高笑いが響き、ジロアスタが手を翳してその声に応じる。

「殺れ。『グェス・クイーン』。真のチカラを引き出したその威力をボクに魅せてみろ」
「はい!かしこまりましたっす!えっと、コメントナンバー[113451]!戦闘開始時から溜めに溜めたこの一撃!田舎モノ共にお見舞いしてやるっすー!」

 辺りに白い大量の文字で生成された渦が生まれ、それが声を発した男に先導されるように一陣の光となって空に飛び込んでいった。


 ちゃらららったらーーん♪[113451]は「超強力レーザービームで殲滅のアタックチャンスーー!」


「おっしゃー!大あたりキターー!!」
「え、なに?どういう事?」

 電子音で生成された楽しげな少女の音声が流れ、急に辺りが暗くなるとその雲を割いて天からすべてを切り裂く光が現れた。すぐ傍を通ったその光の柱がアクター、怪人構わずに薙ぎ倒して消えていくとグラウンドの大部分のアクター達は衝撃によってダメージを負い、地に横たわっていった。

「そんな、何てこと…まさかキタローまで……!」
「戦闘視聴者に攻撃法を尋ね、その数が大きくなるほどその威力が増す能力、『グェス・クイーン』。奇しくもこれがキミ達への洗礼の光となった訳だ」

 大きく捲りあげられたグラウンドのへりでキタローが手にしていたスプレーガンが転がっている。「オクタアンク。キミの右腕である戦力をあの一撃で葬れたのはあの男の運か。それともただ単純に、ボクがスターとして“持っている”だけの話か」

…自分に酔っている話し方が気に入らない!身を屈めた死角から印を切ると突き立てたパイプに意識を飛ばす。…準備はOK。これでおまえを頭から串刺しにしてやる!

「ほう、観てみなよ。真打の登場だ」

 享楽的な声に釣られてグラウンド横に設置された大型ビジョンを見上げると、画面の中で私の兄、日比野 英造ひびのえいぞうがインドマンとして敵アクターと闘っている。その途端、私の意識が何か別の生き物に揺さぶられるように大きく震えた。

「インドマンの相手はかつてボクと闘った事もあるネブラ・イスカ。見たところ、インドマンの方が攻勢のようだ。そういえばネブラ・イスカはそのラ・パールの開発者の息子だったっけなぁ!」

 ジロアスタの声に耳を貸さずに私はパイプの樹を伸ばそうとする。けど、その瞬間、コンパクトが異様な振動をみせて思考を曇らせる。

「もう止めて、テオ。私はあなたに戦って欲しくてチカラを与えた訳じゃない…」コンパクトが泣いている。コンパクトに篭められた真央さんの想いがチベットガールとしての夢幻の意思を惑わせていた。


「やはり、パイプを地に這わせていたか。抜け目の無い娘だ」

 ジロアスタは背後に伸びて空中で静止したパイプを剣で切り落とすと、次にその切っ先を倒れ込んだままの私に向けた。

「チェックメイトだ。キミ以外のアクターはすべて戦意を失った。このまま最後までアルディの暴露話を聞いているのもいいが、あいにく底辺者の実情に興味は無いし、この後の予定もある。これで終わりだ」

 無慈悲に振り下ろされる白刃。もうダメだ、と思ったその瞬間、別の刃がその切っ先を弾き飛ばした。

「誰だ、貴様!……って顔をしてるんで自己紹介させてもらうけど」

 唐傘を被った和の空気間を保つアクターはその場から二歩、逸れるとジロアスタを見据えてこう、口火を切った。

「僕はインドマンの意思を汲みこの向陽町へ仰せつけられたタタン・タタ。相手をしよう。僕が28人目だ」

 絶体絶命の場面に現れた助っ人アクター。どんな人なのかも知れないけど、今はこの人に命運を任せるしかない。私は変身を解除すると控えめに見栄を切ったそのアクターの勇士を見届けていた。

       

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