Neetel Inside ニートノベル
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冒険者よ終末に生きろ
冒険者人生が数分で幕を閉じた話

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冒険者、という職業は、誰しも聞いたことがあるほど有名なものだ。
制約に囚われず、剣を背負って西から東へ。魔物の被害があればそれを討ち、困っている人を助け、未知なる財宝を求めて人跡未踏の遺跡や森に潜り込む。
半ば英雄のように語られることもある。
一方で、冒険者に良いイメージを抱いていない人も少なくない。
まともな職に就かず、昼間から酒をかっ喰らい、頭に血が上ればすぐさま剣を抜く野蛮な人種。根も葉もない噂話を真に受け、ありもしない宝を求めて身の丈に合わない危険な場所へ赴き、あっさりと命を落とす阿呆。
半ばゴロツキのように語られることもある。
世間の人々が冒険者に対して抱く印象はそれぞれだが、どちらかといえば悪いイメージを抱く人が多い。
その筆頭たる理由はやはり、離職・殉職率の高さだ。
冒険者稼業だけで食っていけるのはほんの一握り。いつ命を落とすかもわからない危険な仕事をこなしていながら、食いっぱぐれて止む無く辞職することが殆ど。
冒険者の実態はかなり厳しいものだが、それでも冒険者を志願する者が後を絶たないのは、彼らが阿呆だからなのか。それとも、損得抜きで夢を追える希望に満ちた者だからなのか……。

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その日はユリウスにとって、特別な一日だった。
彼は両手剣一本と小さな荷物鞄のみを携え、とある冒険者ギルドの前に佇んでいた。

「ここが冒険者の宿……『猫の目』亭か!」

ユリウスは高揚を隠せず、拳を握りしめた。
彼は齢18歳にして、幼い頃から夢見ていた冒険者となるため、辺境の村を飛び出して来たのだった。

「ここからだぜ、ゼロから始まる冒険者生活!困ってる人を助けまくって、世界中を旅して、伝説の竜を倒して竜殺しの称号を得て……」
「オイ!!」

突如ユリウスは、背後からの衝撃を受けて前につんのめった。
面食らって振り返ると、そこには、身長2メートルは優に超える大男が立っていた。
男は壁のように広い肩幅と巨体を持ち、全身を薄汚れた鎧に包んでいる。

「宿の前でよォ、ブツブツ一人で気持ちワリィんだよなァ!邪魔くせェし他所でやってくれや!」

地鳴りのような声でユリウスを怒鳴りつけると、大男は宿へと入っていった。

「な、なんだあいつ……見たとこ冒険者っぽかったし、あんな奴がいる宿なのかよ、ここ」

出鼻をくじかれた気分に陥った。
あのような、品性の欠片も持ち合わせていない粗暴な輩のせいで、冒険者のイメージが悪化するのだ。
心の中で毒づきながら、宿を変えようか、と逡巡していたその時。

「ねえ君!オルガーがごめんね」

側方から可愛らしい声がかかってきた。
顔を向けると、軽い防具と剣を携えた、ユリウスよりも2~3つは歳が低そうな少女が立っていた。
青色の短い癖毛とくりくりした目を持ち合わせた、愛くるしい顔立ちをしている。

「オルガーってさっきのやつか?」
「うん、依頼から戻ってきたばっかりで気が立ってるの」
「やっぱり冒険者だったんだな。つか、依頼が終わった後って晴れやかな気持ちになるもんじゃねぇの!?」
「んー、依頼人がちょっとヤなやつでねー。でもオルガーってああ見えても、仕事はちゃんとやるんだよ……ところで君は他の宿の冒険者かなー?」
「や、オレは冒険者になろうと思ってここに来たんだ。猫の目亭って……」

評判のいい宿だから、と続けようとした言葉は、少女の歓声によって掻き消された。

「ホント!?わーい!仲間が増えるよ!やったね!」

少女はさぞ嬉しそうにユリウスの手を握ると、それを強引に引いて宿の入口へと向かっていく。

「オイ、まじか、ちょっと待て」

そういいつつも、ユリウスは特に抵抗せず、よたよたとその後ろをついていく。
握られている手に神経を集中させてしまうのは、彼がまだ経験未熟な少年であるからだ。
少女は気にすることなく、宿の扉を開け放った。

       

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