むかし ある国になんでもほしがる王様がいました。
ほしいものはなんでもせかいじゅうからお金で買いあつめました。
王様は言いました。
「わしの持ってないものはないのじゃ」
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あるとき旅の商人があらわれて言いました。
「おことばですが王様。王様にも持っていないものがあります。
それは―――ひとのココロです」
王様はきょとんとしたあと、たずねました。
「なんだそれは。それは金で買えるのか」
商人は答えました。
「いいえ。ココロというものはお金では買えません」
王様はさらにたずねました。
「では、どうすれば手にはいるのだ」
商人は答えました。
「それはわかりません。王様じしんがそれを見つけるのです」
王様はなにがなんだかわからないので 腹が立ってきました。
「おまえの言っていることはわからん。こいつをしょけいしろ」
王様は兵士に命令しました。その商人はつれていかれました。
商人は引きずられながらも王様に言いました。
「王様。いいですか。ひとのココロを持つことで ひとはひとになれるのです。
あなたにはまだひとのココロはありません。
ひとのココロを手にいれたとき あなたはひとになれるのです」
商人は殺されてしまいました。
王様はなにも考えないことにしました。
しかし あの商人のことばは王様の中に残ったままだったのです。