Neetel Inside ニートノベル
表紙

未定
第2話

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「そうだ、思っていたのとはちょっと違ったけど。」
博士はおもむろにネイロロナを持ち上げ、ロセフの肩の上にのっけた。
「いいんですか!?」
「一応そういう約束だったからね。」
博士は外の景色を見ながら続けた。
「君にとっては初めての魔獣だが、なにもかも相手に頼りっぱなしになってはいけないよ。魔獣士にとって大事なのはパートナーとの信頼関係だ。確かに人間は魔獣に勝つことはできない。それでも体をはってパートナーを守らなきゃいけない場面もあるってことをよく覚えておきなさい。」
「はい!」

二人は準備を整えたあと、ギルのダンジョンの入り口の前で集合した。ロセフの肩には博士からもらったネイロロナが乗っている。ロセフは、この子の名前を“ロロ太郎”にした。愛嬌があっていい名前だと思ったのだが、マギーはセンスの欠片も感じられない、そんな名前付けられてかわいそうと酷評していた。
「よろしくな!」
といって頭をなでなでしたが、ロロ太郎はそっぽ向いてしまった。
「これから仲良くなっていこうな。」
と話しかける。まだロロ太郎は小さくて弱い。今はまだ、自分がこの子をしっかり守ってあげなければいけない、とロセフは決心した。

 しばらく待っていると町の方からマギーが歩いてきた。さっきはワンピースを着ていたが、動きやすいようにズボンを履いていた。彼女の隣にはフォイルーという種の魔獣が付き添っている。研究所で飼育している魔獣のうちの一頭で、博士は“ガウ”と呼んでいる。狼のような形態をしているが、体高100㎝ほどあり、立ち上がれば成人男性でも押し倒せてしまうほどに大きい。
魔獣士が発見した魔獣は、研究者によって“族”と“属性”が決定される。“族”は魔獣の生態によって分類される。例えばこのフォイルーという種は、狼に非常に近い生態をもち、体の構造も良く似ているので狼族に分類される。竜族や妖精族などの例外もあるが、“族”の分類は野生動物を参考にする場合が多い。“属性”は魔獣が使える魔法の属性をあらわしている。例えばフォイルーは炎属性を持っていて、口から火炎を吹くことができる。属性は魔獣同士の戦闘になったときの相性に影響している。ギルのダンジョンは自然属性の魔獣が多く、炎属性のフォイルーは相性良く戦えるので、研究所から連れてきたのだ。

ガウは口から火の粉を吹いて、松明に光を灯した。ダンジョン内は昼でも暗いので、光源がないと先に進めない。二人は慎重に入り口にくぐった。ダンジョンという構造物は、ただデカいだけの建物ではない。1フロアごとに5~15部屋の小部屋があり、部屋は隣の部屋と狭い通路でつながれている。この通路は人ひとりがやっと入れるというほどの狭さの通路で、魔獣に発見されにくい代わりに、もし発見されてしまうと逃げ場がなくて大変なことになる。しかし、次のフロアに進むためには、1フロアにつき1つしかない上り階段を見つける必要がある。そのためには小部屋から小部屋へと移動して総当たりで探していくほかに手はないのだ。
そして何よりも大事なのは、部屋や通路の配置が頻繁に変化するということだ。普通の建築物ではありえないが、ダンジョン内の内部構造は数日~数か月ぐらいおきに、配置が変化してしまう。そのため見取り図などを作成することに意味はなく、魔獣と出くわしたときには臨機応変に対処していかなければならない。

 入り口からしばらく狭い通路を進んでいると、少し広い空間に出た。最初の小部屋だったが、その部屋には先客がいた。ビーネという種の魔獣で蜂によく似ているが、50㎝くらいの羽根を6枚持ち、胴体や頭部もそれなりに大きい。下部にある針は、普通の蜂のように突き刺すためのものではなく、獲物を切り裂くためにある。人間の手刀と同じくらいの太さがあり、針というより瓜や牙のような形状をしている。湾曲した先端部を巻き込むようにして、敵に針をめり込ませていく。ダンジョンには外部とは違う種の魔獣があふれていて、独自の生態系が築かれている。ビーネも外の環境にはいない魔獣の一種であった。
「ガウ!一旦距離をとって。」
マギーが指示を出す。
「ロセフはあいつの注意を引き付けて。」
「言われなくてもそうするってば!」
ロセフは武器を構えて、ビーネの前方から相対した。武器といっても薪を割るための斧で、リーチも短いし、切れ味もそんなに良くない。だがロセフの目的はビーネを倒すことではないので、これで十分なのだ。しばらくにらみ合いが続いたかと思うと、ビーネの後ろからガウが飛びつき、触角を噛みちぎった。
「!!!」
ビーネはズドンと地面に落ちた。声帯をもたないので鳴き声は聞こえてこないが、とても苦しそうな様子でもがいている。ビーネのように虫に近い形態の魔獣は、触角にダメージを与えると再起不能になってしまう。立派な羽根も、ぐちゃぐちゃになってもげてしまうほど激しくのたうち回っていた。
「ガウ。苦しみから解放してあげて。」
マギーが指示すると、ガウはビーネの首に噛みついて一気に胴体から切り離した。ロセフは目をそらさずにその光景を見ていた。魔獣士になりたいと思った頃、博士のもとで手伝いをするようになったが、最初のうちは止めを刺す場面を直視できなかった。だが今はだいぶ慣れてきた。

       

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