Neetel Inside 文芸新都
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「アッー!!」










 両軍が騒然とした。
 別に誰かのアナルが破られたわけではない。
 最終回2アウト、健太郎の放ったボールが打者の顎を直撃した。百二十キロ程度の球だ
し、大丈夫だろうと思った矢先、一塁へと歩き出したバッターの膝が笑っていたのだ。

「脳……揺れたのね」

 こっちが勝っているのに喧嘩を売ってどうする。
 インハイのボール球だったのだが、気持ちが前に行き過ぎて避け切れなかったんだろう。
イチローじゃないのだから(「バットを振らないで終わる打席は嫌い」とイチローが発言し
ていたはずだ)素直に見逃して欲しかった。今回限りボール球は俺のリードだったのだ。
 相手ベンチから代走が出た。こっちはアンダースロー、走ってくる可能性が出てきた。
 一応クイックモーション、胸元に外させたが、案の定ファーストランナーが走ってきた。
あと一人って状況だというのに大胆過ぎるが

「狙いがバレバレユカイ!!」

 セカンドへの偽投、しかも幾分バランスを崩しながらのそれは、サードランナーをホー
ムに呼び込むには こうかはばつぐんだ。

「!?」

 突っ込んできたサードランナーと目が合う。一気に踵を返したランナー。三塁線を追っ
て追って追いまくって……全力でサードへと送球した。ランナーが再び踵を返した。返球
がサード中村から来た。そしてランナーも来た。





 その時、俺の背筋に悪寒が走った。
 抱き付かれねぇか……これ?本来の野球なら杞憂だ。しかし、本能が……ゴーストが囁
くんだよ、身の危険を。





「豊ぁぁぁぁあああああ!!ソイツに抱き付けぇぇぇぇえええええ!!」

 健太郎の怒号が聞こえた。いや、少佐……うん、諦めた。
 がぶり四つで抱きついて、ランナーから漏れて耳に掛かった気のする吐息の音が若干「ウ
ホッ」って聞こえた気がするけど、無事に三塁塁審の手が挙がった。試合、終了。

 アナルは守られたかもしれないが……逃走手段を駐車していたコインパーキングになに
やら目付きの危ない男性方が集まり始めた。健太郎は何も見ないで、勝利の余韻を噛み締
める様子も無く、相手チームの人達と手早く握手を済ませ、荷物を纏めていた。

「俺がチャクる時に目撃者いたから……みんな、そろそろ逃げるぞ!」

「ちょ、おま」

 やっと強烈なランナーのハグから解放された俺の後ろでは笠原さんを筆頭にみんながガ
チムチ阿部さんな方々とシェイクハンドを交わし(無理矢理ではあるのだが)ていて

「マタ、ヤリマショウ」

「タノシミマショウ」

「チョットザンネン」

 というやたらリアルな片言のセリフに顔を青くしていた。
 そして、夕焼け色に染まったグラウンドに長く伸びた影の先にいる健太郎の姿は、全力
疾走だった。




       

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