Neetel Inside 文芸新都
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「さて、健太郎さん……作戦の方はどうしましょうか」
「単刀直入」

 まったく。こいつはまったく。
 二言三言交わして首を横に振られて……子供達が特に囃したてねぇし。

「どうだった?」

 仏頂面で戻ってきた健太郎に聞いてみる。

「暖簾に腕押し……って感じだった。行こう、豊」

 憮然とした表情……というワケではないようだ。なんとなく考えあぐねているという感
じの表情で、健太郎がここから出ようと促した。

「なんだいそりゃ?」
「『どうせ遊びだろ?悪いけど俺は出来ないよ』だって」
「………」
「『少年野球のコーチの方が忙しいからな、すまないけど』」

 口を尖らせて、これは声真似なんだろう。
駐車場を去る間際に、俺は振り返って緑のネットが夕焼けに映えるバッティングセンター
を眺めた。元気の良い声と快音が聞こえた。

「なるほどね……」

 野球部なんかやれば彼等をコーチする時間なんてなくなるだろう。

「引退……したのかな?お前みたいにカムバックって」
「けっ」

 俺の言葉を遮って、健太郎が吐き捨てた。

「無理は体に良くねーよ」
「………」

 どういう意味なのか、イマイチ掴み辛いが桜井の事なんだろう。

「豊……喪瑠素亜大付属の甲本っているだろ?」

 聞くまでもない。あえての付加疑問系だ。

「センバツでモルスアを準優勝に導いた超高校級エースじゃないすか」

 新二年にして百九十センチの身長から投げ下ろす超高校球右腕だ。優勝したチームより
も彼を追いかけたマスコミの方が多かったとかいう話まである程だ。

「その甲本だけどな、中学ではあの桜井君とバッテリー組んでたんだよ」
「おろっ?」

 なんでこんな学校に来たんだ?

「甲本は中学時代世界大会のメンバーに選抜されてたよ。桜井も候補には挙がってたけど
学年の関係だな、選考委員の見る目の無さもあるけど」

 甲本の世界大会(新開催された中学野球版WBCみたいな大会で野球界においては滅茶苦
茶盛り上がったそうだ)出場に関しては西東京地区で野球をやっていた人間で知らない奴
を探す方が難しい。十五歳にも関わらずその二階から撃ち落すような剛球が、大会日程が
進むにつれメジャー球団のスカウトの人数を増やしたと言われている。肝心の大会は打線
がドミニカ代表の継投の前に沈黙して完封負けを喰らって準決勝で敗退した。

「そんな逸材がなんで野球やらないでウチみたいな勉強以外なんら取り柄のねー学校に進
学したんでやんすかね?」
「さぁな……話してくれないと思うし……でも解る気がするよ、あの様子なら」
「プレイが嫌いなのかな?子供達の指導の方が楽しいかな?」

 子供達へのあの熱心な指導がそういう仮説に説得力を持たしている……そう考えてしまう。

「豊、土曜空いてるか?」

 南米音楽のバンドの演奏が作る黒山の人だかりを掻き分けながら国分寺駅構内に足を踏
み入れると、健太郎が聞いてきた。こいつが人の予定を確認してくるなんて珍しい。

「あぁ……特に予定も」
「小川駅に八時半」
「はちっ」
「一分でも遅れてみろよ、またこの前の阿部さん軍団とまた練習試合組むからな」


       

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