Neetel Inside 文芸新都
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「うん、上手いな」

 健太郎の好返球で止まったゲームが再開され、ノーアウト三塁。モッさんは三球目を
ショート正面の当たりに打ち取り、三塁ランナーを進塁させて一点は取られたがワンアウト
ランナー無しで状況を納めた。前の回のビッグプレーがあり、流れが向こうに傾きつつあ
ったので、これは冷静な判断だと思う。大型打者揃いの打線相手にランナーを残す方がよっ
ぽど怖いだろう。

「よし、ひとつずつひとつずつ!!」

 気を取り直したのだろうか、桜井がベンチから手を叩きながらナインを促している。選
手達はそんな監督を一瞥して、そして内野陣はマウンドに集まった。

「おい……これも勧誘行動のつもりか?」

 健太郎に訊ねる。挨拶としてはかなり失礼にあたる。キャッチャー招聘としては逆効果
じゃなかろうか。

「お前さ、キャッチャーに必要な条件って何だと思う?」

 健太郎が質問に質問を返してきた。こうまで人のペースを気にしない奴を、俺が女だっ
たら絶対彼氏にはしない。無論、ケツの穴なんてもってのほかだ。

「………。肩の強さ、足腰の強さ、頭が良い。キャッチングの技術は抜きとして」

 下手に対抗しない方が良い。答える。色々とややこしくしそうなのが健太郎だ。

「後は?」
「そっだなー……」

 さすがにピッチャーではない俺だと、条件というよりはキャッチャーに求めたいモノと
いうものがひどく漠然としている。

「……空気が読めて、カリスマ性が多少欲しくて……、統率力だな。守備の司令塔なワケだし」
「そうそれ」

 シニア時代、守備に立っていた時にバッテリーに感じていた事を回想して、なんとか健
太郎が納得してくれた。

「あれだけ子供達に信頼されている高校生にそれがない、とは思えないよな?」

 腕組みをしてそう言う健太郎の顔は実に満足げで、ここまで入れ込んでいるというのだ
から、コイツはかなりの確率で甲子園を視野に入れていると思う。

「豊ぁ、気付いてたか?さっきのサードゴロでのランナーの牽制リード、さっきの守備シ
フト……あれ全部桜井がサイン出してキャッチャーがナインに指示してたぜ」
「……マジでか?」
「それを全部理解して、疑いもせずによどみ無く打球を処理出来るのは……」

 信頼があるから、という事か。確かに、高校生がやんちゃな小学生達を相手にして、選
手として、あそこまでしっかりと育てているっていうのであれば……キャッチャーだけで
なくコーチとしてもチームにとって魅力的な存在になるだろう。
 確かに、テンション的な問題で言えば俺も結構マジに野球をやり直そうと思い始めてい
る。モルスアの超高校級エースの元女房がいるならかなり心強い。
 そんな事を考え出した時だった。

「あのー君達!」

 背後から野太くて、ヤニにやられた、いがらっぽい声が聞こえた。

「!?」

 振り返るとそこには、小平アスレチックスのユニフォームに身を包んだ、小太りのおっ
さんだった。これで振り向いていたのが先日のガチホモ軍団だったらマジで気絶していた
だろう。同じくチームがアスレチックスだし。

「君は……」

 振り向いた俺達を見て驚いたのは、おっさんの方だった。


       

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