Neetel Inside 文芸新都
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 四球でランナーを出すものの、ピッチャーのマウンドさばき、各野手の動きは慣れたも
ので、進塁してくる走者に囚われずに打球を大事に一塁へと送球して二回ウラを終えた。

「レベル高ぇ……」

 思わず口をついた。そんじょそこらのおっさんの草野球なんかと比べたら、こっちの方
がよっぽど野球になっている。

「ナイピーナイピ!!」
「よっ、和製ランディ・ジョンソン!」
「たとえが古い!」

 まだ声変わりも迎えていない澄んだ声の、笑い声がハモる。
 パイプイスに腰掛けていた桜井が立ち上がると、選手達が脱帽してその周囲に集合した。

「よっしゃよっしゃ!流れ的に二点で抑えたのはデカイよ!これからこれから!」

 特に桜井が技術的なアドバイスをするでもなく、その大きな声は選手達を鼓舞するだけ
だった。代わりに、選手同士で様々な情報交換が行われていた。

「俺達が後ろにいるのに気付いて……ない?」
「そういうのがどうでも良いくらい集中してるんじゃないか?」

 御手洗さんにベンチ裏へと案内された俺達は、試合中の選手達に配慮して父母応援団が
作る人だかりの後方で観戦する事にした。

「よく見ていけば当たるぞ!」
「バッチ練習思い出せ!」

 威勢の良い応援をよそに、相手ピッチャーの角度のある直球に翻弄された打線は、三回、
四回と沈黙を見せた。

「オッケオッケー!ここは根気だよ!こっちも負けてない!」

 桜井の激励の通り、小平アスレチックスも、ピッチャーがヒットを許しランナーを出す
状況に食い下がり、事態を膠着させていた。

「よっしゃ五回!上位からだ!やんぞ!」「オォッ!」

 円陣の真ん中で膝を突くキャプテンの掛け声に、澄んだ声色の雄叫びが応える。

「締まった展開だな……」

 思わず溜息を漏らしてしまう程の試合展開だが、これを去年コーチに就任して間もない
桜井が作りあげたというのは信じ難かった。とは言え、選手達の桜井への信頼を見ている
と、それは納得せざるを得ないのか。

「おぉ!」
 真っ青のゼットのバットを、トップを高めに構えて先頭打者が右打席に着いた。

「初回思い出せ!十分見えるぞ!」

 二塁ランナーコーチの応援を皮切りに、ベンチ内でも千葉ロッテマリーンズばりの、コ
リアンポップを元ネタにした応援歌が始まった。

「オーオオッ・オイ!!オーオオッ・オイ!オーオ・オーオー・リョオタ!!」

 仲間に後押しされた2ナッシングからの三球目

「ナイバッチ!リョオタ!」

 熱烈な応援に力を貰ったのか、リョオタは三つ目で極めに来たキャッチャーが要求した
低めの球を捉えて三遊間を破った。多少に内に入ってきた低めの速球を、しっかりと腕を
たたんで打てていた。

「よっしゃ!良いよ!練習通り!」

 パチパチと大袈裟に手を叩いて、桜井は一塁上のリョオタにエールを送った。そして次
の打者が打席横でベンチを振り向くと、サインを送りだした。

「続けー!トモフミ!」

 ベンチ裏を賑やかにする父母応援団も、特に母親軍団が黄色い声を上げて我が子を応援
していた。
 そして

「走った!!」

 1ボールから二球目、リョオタがキャッチャーからの牽制球を掻い潜り二盗を成功させ
た。ベンチの選手及び応援団が更に沸いた。

「しゃっー!こっからだー!続けよバッター!」

 セカンド上でリョオタが叫んだ。


       

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