Neetel Inside 文芸新都
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「セカンセカン!!」

 サードベース上の野手がキャッチャーへと注意を呼びかける。セカンドベースをオーバー
ランしたトコロで、バッターランナーのモッさんが動向を窺っていた。

「タイム!!」

 モッさんが散々守備を掻き回そうと次の塁を狙う仕草をして、渋々塁に戻った後、桜井
が大声でタイムをかけた。肩をいからせている。

「ワロースさんでは子供にあんな危険なブロック教えているんスか!?どういうつもりで
すか!この後のプレーに影響が出る可能性があるでしょう!!」

 呆ける選手達を尻目に、投捕間を横切ってワロースベンチへと詰め寄った。

「おっ……おい!!」

 すかさず御手洗さんが桜井の後を追いかけた。が、ワロースベンチで腰を下ろしていた
監督、コーチ、そして父母会に繋がっている導火線の無事を守る事は叶わなかったようだった。

「ま、そりゃそうだよな。あんなガキに、スンゲー剣幕で……しかも子供達の前で怒鳴り
付けられたら、それが正論でも頭に来るわな」

 涼しい顔で分析した健太郎と、グラウンド上でポカーンとしている選手達の差があまり
に激しい。
 一触即発ムード、まさにそんな時だった。

「監督!!」

 モッさんのバットを担いで、タッチアウトを喰らったトモフミの肩に肘をかけながら、
リョオタが桜井を呼んだ、極めて大きな声で。その声に気圧されたのか、ハッとなった大
人達の視線がリョオタに集中した。

「時間がねぇんだ……後にしてくれよ」隣のトモフミの肩を叩き「コイツなら大丈夫。ズ
ボンの当て布が少し破れただけだってよ」

 そう言った。

「………」

 破裂寸前だった空気が緩み、そして

「あ~……」手で顔を覆い、天を仰いで「やっちまった」

 桜井はそう言うと、ワロースのベンチに向かって深々と頭を下げて、謝罪の辞を述べた。
こうも相手から先に誠意ある謝罪をされると、向こうも言いかけた台詞を飲み込まざるを
得ないだろう。相手は高校生のガキだし、教育的に子供達が見ている前だし。

「おーい監督ぅ!試合中にキレるクセどうにかしろよまったく!」

 ベンチに戻った桜井が、選手達にやりこめられた。こう見ていると、監督に対する態度
というよりは、チームメイトに接するような、そんなノリだ。

「んぁ~!ごめんよごめんよ」

 子供相手なのに本当に申し訳無さそうに、そう言う桜井。そしてトモフミの方へ顔を向け

「熱中するのは良いけど、あのタイミングでキャッチにボールが渡ったなら……そこで挟
まれるか……最悪、諦めて良いよ。固いプロテクター着けたキャッチャーとのクロスプレ
ーはマジで危険だからな」

 キャップに潰されて、汗で湿ったトモフミの頭を掴むように撫でた。

「ストライッ」
「おっと」

 そうこうしている内に試合は再開されていて、五番バッターが凡退した。

「さっ、何があるかは分からねーから気を抜くなよ!行って来い!」


       

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