Neetel Inside 文芸新都
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「ガアァッ!!」

 朝陽に映えるマウンドの真ん中、エースナンバーを背負った少年が雄叫びを挙げた。

「ナイピー!」
「俺は信じてたぜ!」
「テメー思いっきりバウンドおかしい送球したクセにフザけんなよ!!」
「ハッハッハッハッハ!お前の打席なんだから勝ち越せば問題なし!て言うかエロ本返せ
さっさと」

 試合中にも関わらず、この少年……モッさんはエロ本ネタのチャントをよく貰っている。
しかも人妻属性……末恐ろしい。

「性欲と野球の腕ってのはリンクしてるのか?」

 ワンアウト二、三塁の状況を、モッさんは見事に三者凡退で締めた。

「行っくぞお前等ぁ!」

 前の回と同じシチュエーション。凡退した一番、二番がベース上に立ってバッター三番
からのスタートとなる。

「おい、延長だぜ……ここまで良い所なかったんだし」

 バッターボックスに入る直前の三番バッターが、サインの確認の為に振り返った。桜井
はその打ち合わせには応えずに、力強く

「ヒー」
「ヒーローになって来い!!ショウタ!!」
「………」

 激励したかったみたいなのだが、その台詞を見事にウェイティングサークル内のモッさ
んに強奪された。

「監督涙目」

 それは四字熟語にはならないなぁ健太郎さん。

「……こういう時に底力以上の領域が出てくるんだよな、勝つ方って」
「あん?」

 健太郎が怪訝なツラをした。

「大抵の奴はさ、精一杯とか言いながらも……失敗すんのが怖くて、笑われんのが怖くて
限界ってモノをさ、実際よりも結構手前に設定してるんだよな」
「………」
「だからかもしれないけど、そいつを突破する時、つーか突破した時ってのをさ……気付
くのってそれが終わった後なんだよな」

 カウント2-1、一球の様子見とファールチップを含めて、四番からもお墨付きを貰っ
たバッターはボールをよく見ている。
 太陽は春の陽気の顔をしている、だけど気温はそれ程過ごしやすいとは言い難い。ベン
チ裏応援団席の面々の格好は皆、若干厚着で着膨れしていた。そのような状況下で今、打
席を外したバッターの首周りは、俺達のいる場所からでも分かる程に噴出した汗で光り、
顎からはその雫が垂れていた。当の本人はそれを意に介していやしない様子だ。

「集中し過ぎて、ネガティブな事が全て頭の中から消えていくんだろうね。そうするとき
っと、ミラクルが起こるんだよ」

 それは雑念が少ない野球少年の方が、きっと。
 内角低めの直球が、吸い込まれるようにバットと衝突した。



       

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