Neetel Inside 文芸新都
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「……こんなトコロで脚がもつれた?」

 ワロースのサードのフィールディングの良さは、これまでのイニングを見ての通りだっ
た。それだけに、目の前で起きた事に対して目を疑っている奴等が多い。

「いや……多分」

 健太郎の説明は必要なかった。地面に転がったサードは、膝を突いたまま起き上がれず
にいた。インプレー中の出来事にキャッチャーがすぐさまタイムを要求した。

「あの時の……」
「だね。軟球とはいえクリーンヒットして爪先に直撃、多分爪が割れてるよ」

 キャッチャーとショートの選手に肩を任せ、引きずられるようにベンチへと下がる。間
もなくサードには、ベンチから忙しそうに飛び出した選手が守備についた。

「モッさんは……これを分かってて逆方向に?」
「引っ張っても良い場面だけにね。完全に右肩がレフト向いてたし」

 だとするなら、驚異の観察力だ。ランナー満塁になった直後の状況でなら、攻め手はピ
ッチャーの観察をしてしまいがちだが、彼はめざとくサードの歩き方に気付いたというの
か。この後、五番打者から右打者が続く。それを考えていたとすれば尚更だ。

「あとは……俺の私見だけど」健太郎が断りを入れてから「あの三塁の子を気遣って引導
を渡したのかもな。黙ったまま延長が続けばもっとヒドイ事になっていたかもしれないし」

 どうあれ、ワンアウト満塁。不測の事態に浮き足立つワロースと、四番が仕事をして意
識のベクトルがポジティブな方向へと揃っているアスレチックス、土壇場で両チームの立
場が派手に別れた。

「しかし……こうまで底の厚い攻撃が出来るなら今までで、もっとやりようがあったんじゃ
なかったのかな?」

 相手チームも使っていた、特殊素材のバット……例えばビヨンドマックスをアスレチッ
クスが試合の最初から使っていれば。

「コンポジット素材のバット使用に関しては……異議を唱える選手が少年野球にも少なく
ないって聞くからな。道具に頼っても意味が無いってのはどっかの金満プロ球団に聞かせ
てやりたい限りだな」

 健太郎が嘲笑気味にそう言った。無論、日本のジャイアンツや、アメリカのヤンキース
の事を指しているのだろう。


       

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