Neetel Inside 文芸新都
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「おぉーっ!!」

 健太郎がいたく喜んでいる。無邪気な顔で若手芸人ばりの拍手までしている。

「偽投かよ……あの送球がブラフなんて」

 小学生とは思えない演技力だ。

「ワロースくらいの強豪チームなら偽投を想定した走塁も練習していただろうに」
「サヨナラ勝ちフラグに集中を乱したな」

 ともあれ、二死二、三塁、ピンチである事には変わらない。

「さて……ここからが本番だ。ここでスコアに“K”が付いたら格好良過ぎだね」

 俺が鼻の穴を膨らませてそう言うと、健太郎が顔を近付けてきて耳打ちしてきた

「ところであの外野陣を見てくれ、あいつをどう思う?」
「すごく……前進守備です……」

 二死とは言え、二人目のランナーが一打で帰ってしまう状況なのだから当然なのだが。

「それがどうした?」
「あ、いや……気付かないんなら後で話すよ、ふふん」

 鼻で笑うような、嫌な含み笑いで話を締められたが気にする余裕はなく、次のプレイが
始まっていた。セットポジションでゆったりと静止するモッさん、たっぷりと時間をかけ
て右足を高々とリフトアップした。

「おい……」

 投球と投球の間はたっぷりと取っている。しかし、球がストライクゾーンに入らない。
0―2、あと一人というところで、強心臓の持ち主のモッさんも固くなったのか。

「豊、見て置け。面白い事になるから」

 再び、耳打ちされた。面白い事?
 モッさんが、三度セットポジションの状態で長めの静止を取っていた。そして、彼、い
や彼等の取った次の行動は、再びこの試合を見ている者達の予想の斜め上をいった。
 モッさんは軸足を素早くプレート上から外すと、くるりと半回転してサードへと牽制球
を投げた。そこを守る選手は今現在ベースの付近に身を置いていないにも関わらず。サー
ドランナーのリアクションが、相手ピッチャーの唐突なミスに俄かに踊っている事を教え
てくれた。ぐっと重心がホームベース寄りにかかる。

「……ッ!!ランナーバック!!」

 サードランナーの心が躍っていたのが賑やかなサンバだとすれば、突然の出来事に驚き
その対応に追われたサードコーチャーの心境は、踊りに喩えればてんてこ舞いと言ったと
ころか。
 前進守備を敷いていたレフトの選手が、飛び込むようにサードベース上へと駆け込み、
モッさんの牽制球を捕った。再びのトリックプレーが、二度目の挟殺プレイを生んだ。


       

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