Neetel Inside 文芸新都
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 塁審の右手が高々と上がり、その正面にはうな垂れるサードランナーと、高々とハイタ
ッチをするアスレチックスの選手達がいた。

「あの前進って……」
「あわせて言えば、あの長々と取った間とボール二つってのは、相手の油断を誘って注目
を投手一人に集中させ、レフトの極端な前進と背後からの忍び寄りを気付かせないように
する為のモノだよ」

 集合した両チームの選手達を眺めながら、健太郎が説明してくれた。

「制球の乱れもブラフ?」
「トンだ役者だよ」

 器の差がモロに延長のスコアに出たと言える結果だ。最終回はワロースがバッテリーの
掌で踊らされていたという事になる。

「でも……これだけの駆け引きが出来るなら延長に持ち込まれる事も無かっただろjk」
「そりゃぁお前……」今度は先程とはえらく違い本気で鼻で笑い「こんな鬼ルールの延長
にまで持ち込んじゃまともに野球やれやしないんだから……だからこそだよ」そう答えた。

 野球の実力とは関係無い要素が大きく関係してくる試合になってくるのがこの延長戦特
別ルールだ。それだけにある意味、高校野球以上にシビアな世界になる。ここまでもつれ
こんだら、勝つのに方法は選んでいられないという事か。

「だからと言って……延長も頑なにビヨンド使わずにやってきたんだから、最後の曲芸も
十分に誇って良い筈だよ」
「……まぁな」

 俺の総評に、健太郎が賛同した。
 ベンチ前では、お互いのチームが対戦相手の健闘を円陣になって、称えていた。その輪
を尻目に、桜井は俺達が固まっているベンチ裏応援席へと歩み寄って、応援団一人一人と
握手を交わし、感謝の言葉を述べていた。
 自分より干支二回り分は年上の、大人一人一人の言葉に感激した様子の表情を返し、遂
に桜井が……その応援団の列最後尾に着けていた俺達と対面した。

「………!?」
「どうぅも~ナイスゲームでした~」

 なんだか嫌味臭い言い方でアスレチックを称えた健太郎。今日の一連の行動が勧誘行為
であるならば、全部裏目に出そうな気がして、胃が痛くなってきた。
 突然表情が強張った桜井を見て、それまで歓喜に溢れていたベンチ裏の空気が、じわり
と変わった気がした。

「……ふぅ」

 差し出された健太郎の手を握り、桜井が浅く溜息を吐いた。

「部活云々の話なら別のトコロでしてやるよ……とりあえずは」

 強張った表情を変えず

「応援、ありがとう。多分だけど、うちのエースが気合入ったのはお前の……お陰だと思う」
 桜井が言った台詞はとても意外だった。


       

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