Neetel Inside 文芸新都
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「いらっしゃいませー」

 バイト店員なのか、俺達とそう歳も変わらないだろう女の子が元気良く迎えてくれた、
そば処ひんぬー亭。

「名前とは一切趣が逆ですね前田さん」

 そば処とはアナウンスしているものの、店内の雰囲気はやたらモダンで……BGMには
BEGINのしゃがれたブルースが使われていた。店員の制服も、清潔そうな白シャツに靴
まで届くサロン、黒いストレートのスラックス……どちらかと言うならば洋食屋だっ
たりバー(行った事ないけど)のような印象だ。

「御手洗で予約は入ってナイっすか?」

 健太郎がカウンターに立つ、黒い髪を結い上げた女性店員に訊ねた。

「………、御手洗様ですね!山崎さん、奥のお座敷へお連れ様をご案内してくださーい」

 コツコツという健太郎のティンバーランドの足音が石造りの床に鳴る。通されるカウン
ター席、テーブル席は休日の七時という事もあり酒を織り交ぜながら賑わっている。

「明らかに店員目当てのニーさんもいるね」

 健太郎が俺達を案内する女性店員さんに聞こえないよう耳打ちしてきた。
 通された奥の座敷では、御手洗さんが湯呑を口に運んでいる最中で、その途中で俺達に
気付いて軽く手を振ってきた。

「どもども、お疲れさん。とりあえず座って」

 御手洗さんに勧められるがまま、座席に上がって胡坐を書いた。すかさずメニューを差
し出され、健太郎がチラッと内容を窺ってから口を開いた。

「さっそくですが……お話というのは?」

 単刀直入だった。御手洗さんも多少意表を突かれたようだった。

「多分前田君なら分かってると思うけど……」
「桜井君の事、ですね?」

 ややあって、御手洗さんが頷いた。

「ここのマスターはね、うちの六年生のキャッチャーやってる子の親父さんでね……予約
の電話を入れたら、たいそう張り切ってた。好きなモノを頼みな、味は期待して良い」

 突然、話が変わった。なんだか、桜井の事が話しにくそうな……そんな印象だ。
 そうこうしていると、先程入り口で俺達を向かえた店員さんが注文を聞きにやってきた。
マスターが張り切っているというのなら、その蕎麦も食いでがあるというものだ。よしっ、
ざるそば……頼もう。

「テラカツ丼お二つ、つゆだくで!かしこまりました~」

 かしこまりました~、って何この……俺のメニュー見ている間の特殊部隊ばりの迅速な
行動。というか蕎麦屋のマスターが張り切っているの聞いて、好きなもの頼めと言われた
ら本当にカツ丼頼む健太郎。俺の分までって。

「それで……桜井君の事というのは」

 え、俺モノを与えられし空気?

「彼を……もう一度選手にしてやってくれないだろうか」

 口をへの字に曲げて、御手洗さんがそう言った。

       

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