Neetel Inside 文芸新都
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 緑に溢れたキャンパスは、色とりどりの派手な格好した学生に溢れていた。よく陽の当
たる山肌に作られた大学で、眼下に水量の多い多摩川を望めた。

「ウチの学校が私服な分、あんまり変わらないなぁ」

 大学見学だと言って、事務課の職員にグラウンドの場所を教えてもらい、木漏れ日溢れ
る並木道を歩く。

「あ……聞こえてきた」

 道の向こう、木々が切れて光をたっぷりと受ける開けた空間からその音は聞こえた。

「………、おぉっ!」

 並木道を抜けると、目の前に現われたのはグラウンドだった。よくある砂利のグラウン
ドだったが、そこで動く人達を目で追っていて、ややあってから思わず声を上げてしまっ
た。

「思い出したよ……これこの前テレビで特集組んでた」
「そっ、ルールにハンディキャップが合わないなら……ルールを変えた、野球だ」

 つい最近まで、俺のその存在すら知らなかった障害者野球だ。
 今、俺の目の前で白球を追う選手達は、ユニフォームの袖片方がふらふらと走る度に自
由に揺れていたり、脚片方が無く松葉杖に身体を預けファーストで送球を受け取っていた
り、捕球直後にグラブを脇に挟んで瞬時に手を抜き取り返球する隻腕の外野手……

「まさに和製ピート・グレイだろ……あの投手はまさにジム・アボットだな」

 健太郎が事も無げに言った。だけど既に俺は目の前が霞んでいて、健太郎がそう称する
投手の姿は捉え切れていなかった。

 袖で目を擦って、今一度グラウンドを見つめる。

 内外野が分かれてノックを受けている。それは何処でも見られる野球練習だった。選手
が身体的欠損を抱えている事なんてお構いなしに、ノッカーは捕り難い所へとボールを打
っている。選手が捕れなければ厳しい声もかける。

「甲子園って……本来これくらい野球が好きな人達の為にあるのかな」

 選手達の掛け声にネガティブなモノは感じられない。誰もが白球に対して真剣だ。

「豊……あそこ見てみろ」

 感慨深い光景に釘付けになっていた俺の肩を叩くと、健太郎はある方向を指差した。そ
の先にいたのは、汚れの目立たないユニフォームに身を包んだ選手で、松葉杖で身体を支
えながら器用にキャッチボールをしていた。

「あの人が……」
「そ、桜井と激突して野球が出来なくなったっていう選手だよ」


       

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