Neetel Inside 文芸新都
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 昨日の健太郎の決意表明には、俺もいささか心を打たれたのだが……

「お決まりだよね」

 そういう時に限って、クラスの違う桜井と絡む時間を作れない時間割だったりする。
 一応、偏差値的には東京のランキングで上から数えた方が早いという我が校は、それな
りに授業のレベルも高く、授業間の休憩時間に多少なりとも次の教科への準備を取らなけ
ればならない。しかもホームルームというモノが存在せず、各教科の担任が教室を持って
いて、生徒の方が授業毎にそこへと移動する、いわゆる欧米のスタイルなので、教室移動
は非常にスピーディーに行わなければならない。そんな事もあり、一部の上級生は教員の
目を盗んでは校舎内の移動方法にキックスケーターや、スケボーといった手段を用いて移
動時間の短縮を図っている。時には校車内をトライアル用の自転車で移動するツワモノも
いる。

 しかし、どうも健太郎においては、そんな構内の常識の例外なようで……コイツはいつ
も授業間に仲間内にメールを送っては嫌なちょっかいを出してくる。

 まぁ俺にも得意教科などはあり、そういった教科なら、授業の直前に教科書を斜め読み
すれば、大学の講義のように端折った板書であっても移動の合間にいとまを作る余裕がある。

「古文にオーラル、実験が二時限続きとかね……」

 要するに、俺にとっての苦手科目が並んでいる今日は行動を起こすにはあまりに都合が
悪いという事だった。

 そんなこんなで、放課後の練習にとりかかった今、健太郎はご機嫌斜めだ。相変わらず
のコントロールで、キャッチボールが楽で良いのだが……どうも健太郎の球がいつもより
鋭い。伝わり辛いが、簡単に言えば……いつもより球速が、はるかに速い。

「俺はキャッチャーじゃねぇんだぞ!」

 挙げ句の果てには、最高球速が百四十キロを軽く超える左腕で振り被りやがった。硬式
球用のグラブという事で、半ば任意でポケットの中にボールが納まってくれるから、それ
程耐え難い衝撃に襲われるワケではないが、やはりファーストミットで受けるボールでは
ない。

「なぁやっぱりさ」

 お前の投球を見せれば桜井も納得してくれるんじゃねぇか、とか

「それにさ」

 お前のバッティングだって絶対アイツが見たら野球狂の血が騒ぎ出すって、などと色々
と健太郎に、桜井スカウト攻勢について打診を試みているのだが

「………」

 そんなに今日の事がお気に召さなかったのか、ただただ健太郎は黙々と俺に向けて、そ
の投球のピッチを上げていった。


       

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