Neetel Inside 文芸新都
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 軌道計算の容易い健太郎とのキャッチボールを終え、額に汗をかきながらの小休止を取
って、誰に言われるでもなくモッさんはふらりとブルペンへと向かった。スパイクの裏で
地面に打ち付けたピッチャープレートの周囲を均し、それを確認してプロテクターを装着
したキャッチャー、確か……

「トモフミ……だったな」

 程よく冷えたジャグの麦茶をあおって、先日の試合での立派な捕手ぶりを思い出した。

「よし、全員フリーやるぞ!今日はバッピを前田君にやってもらう!ファーストを笹井君
にやってもらうから、みんなちゃんと送球しろ!」

 集合した子供達に御手洗さんが、てきぱきと指示を出す。子供達は脱帽した帽子の形を
整えてから被り直して、それぞれのポジションに散っていった。

 もう俺の名前はどうでもいいや、という気分になってきました。

「あんちゃん本当に上手いの?」

 セカンドに守備についた選手が訊ねてきた。

「口で言ったって分からんだろ……実際確かめな」

 軽くゴロを放ってやって、そう答えた。わざとスタートを遅らせてボールのコースに入
ると、小さな二塁手は逆シングルで捕球して、一連の動作の中で送球してきた。

「ショート!」

 対角するポジションへと、ゴロを放った。視界の端に見えた健太郎が、ネットに向かっ
て、ゆったりとしたフォームで投球練習をしていた。

「C球じゃ、さぞやりにくいだろうな」

 新規格球とはいえ、やはり軟式は軟式。縫い目の指先への引っ掛かりなどは一度硬式球
に慣れた者にとって多少の違和感があるだろう。ましてや手先の感覚の鋭い投手だ、その
長所が直接アダになるかもしれない。

「それじゃ、まず六年生が二回り!待ってる間にみんなは素振りしておけ!」

 選手によっては、マスコットバットを担いでいる。

「あっと……桜井は?」

 ブルペンに目をやってみると、桜井はトモフミの横でしゃがみながら、せわしくキャッ
チャーの足捌きを実演していた。ショートバウンドした投球に、腰からぶつかりにいって
後逸を阻止する練習だろう。後姿だけだが、トモフミがとても熱心に聞いているのが分か
る。モッさんも容赦なくホームベース前方にボールを叩きつけていた。

「準備良いぜ……どんどん来いよボウズ共」

 健太郎が渦巻状にレーキが掛けられたマウンドの真ん中から、バッターボックス横で準
備をする選手達にそう言った。


       

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