Neetel Inside 文芸新都
表紙

見開き   最大化      



「そーそー、軽く膝を曲げて……捕り方はキャッチボールと一緒!」

 結局、ジャージに着替えて裏庭で練習を始めたのは、俺達新入生だけだった。
 去り際に渡された部室の鍵で、なんとかバットとボール、メジャー等の道具は取り出せ
た。意気込んで持ってきたミズノのスパイクは、使う機会が無さそうだ。
 まずは硬球初体験の健吾を中心に練習メニューが進んでいった。桜井の見初めたさすが
の運動神経か、健太郎のグラブを借りてボールを追う姿が、初心者とは思えないくらい様
になっていた。桜井の教え方も的確でムダがない。

 そんな中、俺と組んでブルペンを作っていた健太郎が唸っていた。

「ん~どうするべきか……」

 始めは土を盛れない為、どう工夫してマウンドを作るか、とかそういう部分で悩んでい
たのかと思ったが

「あのゲイ集団がみんなの住所抑えているってのが嘘ってバレたからなぁ……」

 健太郎なりに、先輩部員をどう練習に参加させるかを考えているようだ。そう言えば野
球部の面々は、先日のアナル決壊阻止野球で健太郎に脅迫されて審判団を勤めていた。

「………」

 彼が部内の人間関係を一瞬で破壊しかねない過去を持っていた事を思い出した。
 さっき先輩方がそそくさと帰った原因はこれだったか。

「お前はよくそれで、またこの学校で野球しようと思ったな」
「ごめん、こうなるとは……」
「健太郎さんの謝罪が信用出来ねぇ!」
「だったら謝らなければ良かった」

 あくまで楽しんでいるなコイツ。
 ホームベースを落とすと、ボフゥと音を立てて周りの砂が舞い上がった。

「とはいえ、やっぱり……やる気の無い運動部に効くガソリンといえば」

 五秒くらいの沈黙。青春真っ只中の男達が求めるモノはひとつだ。
 すると、てんでバラバラな方向を向いていた全員が振り返って視線を合わせ、指を立て
て言った。

「女子マネージャー!」「更なる恐怖!」

 あーっと、健太郎君ひとり却下。
 思春期だなぁと思わせる結論は、野球に打ち込むと決心した割には面白いものだった。

「とは言え、どうするんだ?各部活の新入部員争奪戦は一段落して、それからこぼれてい
て、且つ野球部のマネジャーやってくれる人とかって……」

 いるものかなぁ、そう続けようとしたその時、視界の端に下校する生徒がひとり映った。
 淡い栗色の髪をお団子でまとめた頭、少し鼻にかかる声で笑うその人は

「い、井上さん!」


       

表紙
Tweet

Neetsha