Neetel Inside 文芸新都
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 汚い部屋ですがどうぞ、と通されたのは桜井の部屋。部屋の中にブルペンが作れそうな
程に広い。俺達みたいな庶民が広い部屋で生活すると、空間を持て余して寝て一畳の範囲
に生活臭が集中し落ち着くところだが

「すごーい……部屋綺麗だねー」

 桜井はこの床面積を余す事無く、家具などを配置している。朝に起床してから家を出て、
帰宅して服を着替えソファに落ち着く……そんな一連の流れをスムーズに行えるような、
工夫された配置のような気がする。
 座り心地の良いソファに座らされて、程無くして使用人と紹介されたおばさんが出して
くれた紅茶を俺達は啜っている。どうも現実感に浸れないのか、見事なくらいに桜井以外
のメンバーが沈黙を貫いていた。

「……で、だ。そろそろコント的な展開は止めにして、どうすれば良いかを」

 桜井が俺達を一瞥して口を開いた。その時だった。

「兄さん、帰ってるの?」

 がちゃり、とノックも無くドアが開かれて、澄んだ声が部屋に飛び込んできた。

「!」

 一斉に視線がドアに集まる。

「琉璃……」
「あぁ、お客さんがいたのね。ジャマしちゃってごめんなさい皆さん」
「あぁ……ただいま」

 ドア越しに聞こえた声の主が姿を現して、桜井がその主を紹介した。

「妹の、琉璃ね」

 そう言って、次に俺達を妹さんに紹介した。兄がお世話になっています、と言って彼女
はお辞儀をした。

「目元そっくりだけど……妹とは思えないくらい可愛いね」

 流石に失礼なセリフなので、井上さんが耳打ちで感想を述べた。
 耳がわずかに覗けるくらいに短い髪だけど、穏やかな目鼻立ちとほのかに朱に染まった
頬のお陰で、それ程活動的なイメージはなくて、むしろ儚さの漂う女の子だ。

「……さて、ちょっと俺はライティングの課題が残ってるからそろそろ」

 健太郎がおもむろに立ち上がって、そう言った。確かに、言い方は悪いが空気をかき回
された感じだった。

「お茶、ご馳走様。おいしかった」
「お、ちょ……おい」

 健太郎に倣い、俺達三人も荷物をまとめる。

「それじゃ桜井、明日は市民公園使えるみたいだからバット持って来いよ」
「じゃあね」
「グラブオイルありがとう、手入れやってみるから」


       

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